M&Aとは?M&Aの完全成功マニュアル
私たちインテグループは、中小企業のM&A(エムアンドエー・MアンドA)を支援する、完全成功報酬制のM&A仲介会社です。2007年6月に、公認会計士、弁護士などのメンバーによって設立しました。
弊社サイトでは、M&Aを検討中の経営者の皆様に向けて、さまざまな情報を提供しています。ありがたいことに、読まれた方から「他社のサイトに比べ、丁寧に説明されている」「内容がわかりやすい」「質の高い情報が網羅されている」など、高い評価をいただいております。
その一方で、サイトの情報量が増大するに伴い、必要な情報がサイト内で分散してしまい、情報を探すのに手間がかかるようになってしまっているのも事実です。
M&A完全成功マニュアル 目次
1. 中小企業にとってのM&Aとは
「M&A」とは、会社の合併・買収を意味し、「mergers(合併) and acquisitions(買収)」を略した言葉です。合併と買収に加え、資本提携などの企業提携を含める場合もあります。
M&Aと聞くと、大企業や上場企業だけの話と思われがちですが、最近では、事業拡大戦略の一環や事業承継問題の解決策として、中小企業のM&Aが大きく注目されています。実際に譲渡価格の9割以上は100億円以下で、一桁億円の譲渡価格が最も多い価格帯です。
皆様の周りでも、「会社を売却して引退した」「同業者を買収して急成長している」といった話を、一度は耳にされたことがあるのではないでしょうか?
中小企業の経営者にとって、M&Aは今後ますます身近なものになってくることは間違いないでしょう。
M&Aについての知識があるのとないのとでは、会社経営の結果に大きな差が出ます。
例えば、後継者がいなくて困っている経営者が、会社を売却できることを知らずに、会社を清算してしまうと、創業者利益を得る機会を逃してしまうばかりでなく、売却によって維持できていたはずの、従業員の雇用機会や取引先との関係を失わせてしまうことになります。
また、事業拡大を考えている経営者にとっては、新規顧客獲得のために時間をかけて広告費や営業の人件費をつぎ込むよりも、同業他社を買収して一気にその顧客基盤を取り込むほうが投資効果が高い場合もあります。
M&Aは、大企業だけのものではなく、むしろ中小企業にとって、重要な経営上の選択肢となりえます。そのことを、中小企業の経営者はしっかりと認識する必要があるでしょう。
2. M&Aの手法
M&Aの手法は、大まかに以下のように分類されます。
株式譲渡
「株式譲渡」は、売り手企業の既存株主が、その保有株式を買い手企業に譲渡し、買い手企業はその対価として現金を支払うという手法です。中小企業のM&Aでは、大半のケースで株式譲渡が採用されます。
株式譲渡は、数あるM&Aの手法の中で、手続きが最も簡易で、会社の所有者である株主のみが変わり、従業員の雇用・処遇、取引先や顧客との契約関係などは原則として維持されるため、M&Aの影響を最小限に抑えられます。
また、売却による利益への税率が一律約20%と有利になっています。
新株引受
「新株引受」とは、新規に発行される株式を引き受けることです。新株引受のうちM&Aの手法となるのは、第三者割当増資です。
M&Aにおける第三者割当増資とは、発行企業(売り手)が既存株主以外に新株発行を行い、引受企業(買い手)がその払い込みを行う手法です。
株式交換・移転
「株式交換・移転」とは、売り手企業の既存株主がその保有株式を買い手企業に譲渡し、買い手企業はその対価として自社株式を割り当てる手法です。
すでに存在している会社を完全親会社とするのが株式交換で、新たに完全親会社を設立するのが株式移転といいます。中小企業のM&Aではあまり利用されていません。
株式交換・移転
「事業譲渡」とは、会社全体ではなく、会社の一部の事業を譲渡する手法です。中小企業のM&Aにおいては、株式譲渡の次によく利用されています(特殊な理由がある場合、会社のすべての事業を譲渡するということもあります)。
複数の事業を行っている会社が、事業の選択と集中のために一部の事業を譲渡して資金を得て、コア事業に注力するということがありますが、このような場合によく事業譲渡が用いられます。
合併
「合併」とは、2つ以上の会社を1つの法人格に統合する手法です。
1つの会社が他の会社を吸収し合併後も存続する「吸収合併」と、新たに設立した会社にすべてを統合し、他の会社は消滅する「新設合併」があります。中小企業のM&Aではあまり利用されない手法です。
会社分割
「分割」とは、会社を複数の法人格に分割し、それぞれの法人格に組織、事業、資産を移転する手法です。
分割した事業を、新たに設立した会社が引き継ぐ「新設分割」と、既存会社が引き継ぐ「吸収分割」があります。
なお、会社法上は、分割した会社が分割後の会社の株式を取得する「分社型分割」のみを定めていますが、法人税法上では、「分社型分割(物的分割)」に加え、分割した会社の株主が分割後の会社の株式を取得する「分割型分割(人的分割)」が規定されています。
合併などと同じく、会社分割も中小企業のM&Aではあまり使われない手法です。
3. M&Aにおける売却価額と評価方法
売却価額の評価方法の中で、中小企業のM&Aにおいて、最も多く利用されているのが「年買法(ねんばいほう)」です。
年買法は、「時価純資産額+営業権」で、売却金額を算定します。
営業権は、実質営業利益の2~5年分程度で算定されることが多いです。営業権算定の基礎となる年数は、競争が激しく業績が不安定な業種や会社(例:飲食店など)は、短めの年数が適用され、業績が安定しており買い手の買収ニーズが強い業種や会社(例:調剤薬局など)は、長めの年数が適用される傾向があります。
営業権の金額の算定は、業種、売上・利益規模、財務状態、成長性、買収ニーズの強弱などを考慮する必要があります。具体的な売却見込額を知りたい場合は、経験豊富なアドバイザーに依頼するのがいいでしょう。
中小企業のM&Aにおいて、もうひとつよく使われる評価方法は、「EV/EBITDA(イーブイ・イービットディーエー)倍率」です。
EVとはEnterprise Valueの略で、日本語では「企業価値」または「事業価値」と呼ばれます。EBITDAとはEarnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略で、簡易的には「営業利益+減価償却費」で求められます。
EBITDAの5~10倍程度でEVが評価されることが多く、そこから有利子負債を引き、現預金を足して株主価値を算定します。
このような営業キャッシュフローを重視する評価方法は、ファンドが従来から採用していましたが、近年事業会社での採用も増えています。
インテグループでは、売却見込額を無料で評価いたします。ご興味のある方は、「企業価値算定サービス」からお申し込みください。
売却金額の評価方法には、そのほかにも「ディスカウンティッドキャッシュフロー(DCF)法」「類似取引比準法」「類似会社比準法」などがあり、上記の方法と組み合わせて評価されることもあります。
それぞれの評価手法の詳細は、「企業価値とは」をご覧ください。
4. M&Aでかかる税金
株式譲渡で会社を売却した場合、株式譲渡益(売却価額から取得価額や手数料などが引かれた額)に、税金が一律約20%かかります。
事業譲渡で会社を売却した場合は、事業譲渡益に法人税など(実効税率約30%)がかかります。
5. M&Aにおける売却可能性について
中小企業のM&Aでは、実際に売却できる会社は全体の一部といわれており、売却したくてもできない会社のほうが多いのが実情です。
しかし、中小企業の経営者の方は、自社を過小評価してしまうことがあります。会社が売却できるかどうかを、自己判断であきらめてしまうのはもったいない話です。実際に、弊社にご相談いただく中で、「売却は無理かもしれませんが…」とおっしゃられる場合でも、売却の可能性が十分にあることは少なくありません。
実際に売却できるかどうかは、業種、売上・利益規模、財務状態、成長性、買収ニーズの強さなどを考慮する必要があり、経験豊富なM&Aの専門家でなければ判断は困難です。
インテグループでは、売却の可能性を無料で診断いたします。ご興味ある方は、「お問い合わせフォーム」からお申し込みください。
6. 売却しやすい会社・事業とは
中小企業のM&Aにおいて、売却しやすい会社・事業には、次のような特徴があります。
- 相応の売上規模がある
- 利益が出ている
- 無借金、または適切な借入水準である
- 取引先が分散されている
- 経営者への依存度が低い
- ビジネスの仕組み化、組織化ができている
売却しやすい会社の特徴についての詳細は、「売却しやすい会社とは」をご覧ください。
7. M&Aの手数料
M&Aの手数料には、M&Aアドバイザーの手数料、弁護士の手数料、株券発行費用などがあります。
このうち、弁護士の手数料は、M&Aアドバイザーからのアドバイス以外にセカンドオピニオンを求める場合や契約書の詳細な修正を依頼する場合にかかります。弁護士の手数料はケースバイケースで、発生する場合と発生しない場合があります。
また、株券発行費用は、株券不発行会社やすでに株券を発行済の会社では不要ですし、新たに発行する場合でも数万円程度で収まります。
M&Aアドバイザーの手数料
手数料の中で金額が大きいのは、M&Aアドバイザーの手数料です。着手金、リテーナーフィー(月次報酬)、中間金、成功報酬に分けられます。
・着手金
着手金とは、アドバイザーに業務の着手を依頼した時点で発生する手数料です。着手金の相場は50~500万円で、これは仲介会社や想定売却価格によって変わります。
・リテーナーフィー(月次報酬)
リテーナーフィー(月次報酬)とは、毎月一定額発生する手数料で、一種のコンサルティング費用にあたります。金額は仲介会社や案件の規模によってさまざまです。
・中間金
中間金とは、手続きが一定の段階まで進んだ場合に発生する手数料で、多くは、基本合意の締結時点で発生します。中間金の相場は、成功報酬の10~20%です。
・成功報酬
成功報酬とは、M&A成立時に発生する手数料で、レーマン方式という料率表により計算されます。具体的には売却価額の3~5%程度で算定されます(参考「M&A手数料体系」)。
着手金、リテーナーフィー(月次報酬)、中間金の問題点
M&Aの手数料のうち、着手金、リテーナーフィー(月次報酬)、中間金は、M&Aが成立しなくても発生し、一旦払ってしまえばM&Aの成立有無にかかわらず返金されません。依頼した経営者にとっては、まだ成果が出ていないサービスに対して多額の手数料を支払う形になり、不満を感じることでしょう。
M&A仲介会社のサービスの価値は、「経営者の望むような相手先に、経営者の望む価額・条件で会社を譲渡できたこと」、つまり「M&A成立」という結果だけにしかありません。
仲介会社が、どれだけ立派なオフィスを構えていても、どれだけぶ厚い提案資料を作成しても、どれだけ多くの担当者を会議に同席させても、M&A成立という成果が出せなければ、サービスの実施的な価値はないといえます。
また、M&Aの仲介担当者が、着手金や月次報酬を目当てに「成立が難しいとわかっている案件を引き受ける」「達成が困難な売却見込価額を提示して、契約に持ち込もうとする」可能性が常に付きまといます。
実際、弊社が相談を受け検討した結果、売却可能性がないためにお断りせざるをえないような案件でも、「他のM&A仲介会社では確実に売却できると言われた」などと、同じM&Aアドバイザーとして耳を疑うような話を聞くことがあります。
着手金のもうひとつの大きなデメリットは、売り手優位の交渉状況を作ることができないという点です。
どういうことかといいますと、着手金を取る仲介会社は、売り手からだけでなく買い手からも着手金を取りますが、多くの買い手が同時にある対象会社の買収を検討する場合、買い手は買収できる可能性が低いと考え、着手金を払ってまで検討を先に進めようとしません。
したがって、特定の少数の買い手とのみと交渉し、出てきた条件に対して仲介会社から決断を迫られるということが起こります。
本来、多くの買い手候補と同時に交渉すれば、「争奪戦」の状況を作ることができ、出てくるオファーの中から、売り手が優位の立場で、最も相性と条件の良いベストの相手先を選定することができるのです。
中間金は、まだM&Aが成立するかどうかもわからない段階で、成功報酬の1~2割を払う(一度払えばM&A不成立でも返還されません)という、極めてリスクが高いものです。
また、中間金を払ってしまうと、どうしても譲渡対価を得たいという気持ちが強くなり、最終契約の交渉において不利な条件を飲んでしまいがちになります。
以上の問題点を踏まえ、インテグループでは、着手金、月次報酬、中間金を一切いただかない、完全成功報酬制を採用しています。依頼者様にとってリスクがなく、安心してご利用いただける報酬体系であると自負しております。
ちなみに、M&A仲介会社の報酬体系には、さらにいくつかの違いがあります。詳しくは「他社の料金体系との違い」をご覧ください。また、「”完全成功・成果報酬”の理由」も併せてご覧ください。
成功報酬制をうたっている仲介会社は多いですが、詳細な報酬体系を確認してみると、それ以外の着手金や中間金を取られることがよくありますので、十分注意してください。
8. M&Aのメリット
M&Aには売り手、買い手のそれぞれに以下のようなメリットがあります。
- 創業者利益の獲得
- 経営者責任・ストレスからの解放
- 借入金の担保・連帯保証の解除
- 会社経営の安定
- 従業員の雇用維持
- ノンコア(非中核)事業を売却して、コア事業に注力
「会社売却・企業売却のメリット」に、売り手企業にとってのメリットを、経営者、会社、従業員、取引先ごとに詳しくまとめていますので、ご覧ください。
- ほしい事業の獲得(時間を買う)
- 売上のシナジー効果
- コスト削減のシナジー効果
- リスク分散効果
- 財務力の強化
買い手企業にとってのM&Aによるシナジーの詳細は、「企業買収の目的とメリット」をご覧ください。
9. M&Aの流れ
会社を売却する場合、標準的には3~6ヵ月程度の時間がかかります。弊社の実績では、最も短いケースで3週間、最長のケースで2年です。
M&Aにおける、会社売却・会社買収のそれぞれの流れは以下のとおりです。
<会社売却の流れ>
- (1)無料相談
- (2)秘密保持契約の締結
- (3)決算書などの一定の資料の提出
- (4)売却可能性の判定・売却見込価額の算定
- (5)アドバイザリー契約の締結
- (6)打診用資料の準備
- (7)買い手候補の選定
- (8)買い手候補への打診開始
- (9)質疑応答・追加資料の準備
- (10)トップ面談
- (11)意向表明書(条件提示)の受領
- (12)基本合意契約の締結
- (13)デューデリジェンス(買収監査)
- (14)最終契約書の締結
- (15)譲渡実行
M&Aが成立しても、経営者がすぐに完全に退くケースはまれで、通常は一定期間の引き継ぎが必要となります。特に、経営者の影響力が強い会社では、経営者の立場でしばらく残ることが条件となり、引き継ぎ期間が長期化することもあります。
引き継ぎ期間は、1~6ヵ月程度の場合が多いですが、買い手からの要望で1~2年間取締役として残るというような事例もあります。ただし、経営者の年齢や健康状態などで、長期の引き継ぎができないケースもありますので、最終的には、売り手と買い手との話し合いで引き継ぎ期間が決まります。
会社売却の流れをより詳しく知りたい方は、「サービスの流れ(売却)」をご覧ください。
<企業買収の流れ>
- (1)企業買収の方針の決定
- (2)無料相談、買収ニーズ
(業種、エリア、規模、予算上限)の登録 - (3)「ノンネームシート(社名など、
会社が特定できる情報を伏せた概要書)」の受領 - (4)秘密保持契約の締結
- (5)詳細資料の提示
- (6)アドバイザリー契約の締結
- (7)質疑応答・追加資料の提示
- (8)トップ面談
- (9)意向表明書の提出(条件提示)
- (10)基本合意契約の締結
- (11)デューデリジェンス(買収監査)
- (12)最終契約書の締結
- (13)買収の実行
経営者の決断や取締役会によって企業買収の方針を決めたあと、経営企画部などのM&A担当部署で決定した方針を基に、業種、規模、予算などの詳しい買収ニーズを固めます。その買収ニーズをM&A仲介会社に登録し、具体的な案件を待ちます。
買い手に案件が紹介されてから成約するまで(上記3~13)に、通常3~6ヵ月かかります。
この時間の大半は、初期検討、社内決裁、デューデリジェンス(買収監査)など、買い手サイドの手続きに要する時間が占めており、買い手がある程度コントロールできます。
したがって、買い手が早期決着を望み、検討プロセスを早く進めた場合には成立が早くなり、買い手サイドの社内手続きが煩雑である場合や、慎重に検討してなかなか決断できない場合には、成立までに長時間を要することになります。
買い手にとって、時間がかかる可能性があるのは、M&A仲介会社に買収ニーズを登録してから自社のニーズに合致する案件の紹介を受けるまで(上記2~3)の期間です。
売却案件は、売り手企業が売却の決断をした際に案件化されるため、買収を希望する企業がM&A仲介会社に登録しても、通常すぐに案件を紹介してもらえるものではありません。また、登録後、しばらく待って、ようやく案件の紹介を受けたとしても、その案件が買収ニーズを満たすものではない可能性もあります。
ベストマッチした会社には、なかなか出会えないものです。何件もの案件の紹介を受け、検討していく中で、巡り合うことができます。
このような実情から、買い手は中長期的な計画を立てるべきということになります。
「社内会議で、今年度中に1社買収するという方針が決定したので、すぐに案件を紹介してください」というような問い合わせを、M&A担当者様からいただくことがあります。しかし、これは中小企業のM&Aの実情を無視した、無理のある要求であることをご理解ください。
希望する案件がいつ出てくるかは誰にもわかりません。1年先、2年先になる可能性もあります。そのような不確定要素を短期的な計画に落とし込んでしまうと、とにかく買収ありきになり、本来買収すべきでないような会社を買収することにもつながりかねません。
M&A担当者は、信頼できるM&A仲介会社に登録した上で、中長期的なスタンスで買収を考えるのが現実的です 。
企業買収の流れをより詳しく知りたい方は、「サービスの流れ(買収)」をご覧ください。
10. M&Aで必要となる契約書
M&Aにおいて、必要となる契約書は以下のとおりです。
(1)秘密保持契約書
情報開示前に、秘密保持の範囲や秘密保持期間などを定めた契約を、売り手とM&A仲介会社間、買い手とM&A仲介会社間で締結します。売り手と買い手で直接締結することもあります。
(2)アドバイザリー契約書または仲介契約書
アドバイザリー業務を依頼する際に、サービス内容、報酬、専任依頼などを定めた契約を、売り手とM&A仲介会社間、買い手とM&A仲介会社間で締結します。
(3)基本合意書
基本的な売却条件に合意した場合に、売却金額、時期、独占交渉権などを定めた契約を、売り手と買い手間で締結します。基本合意書の締結はデューデリジェンス実施前ですので、基本合意書の中の条件に関する部分については、法的拘束力を持たせないのが一般的です。
(4)株式譲渡契約書
デューデリジェンスを経て、売却金額、譲渡日、表明保証など、すべての最終的なM&Aの取引条件を定めた契約を、売り手と買い手間で締結します。採用されるストラクチャーによって、株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、吸収分割契約書など、契約書の名称が変わります。
11. M&A成功のポイント
M&AM&Aのプロセスにおける成功のポイントを売り手、買い手それぞれの視点でまとめました。
売り手にとってのM&A成功のポイント
(1)適切な売却時期
業績が好調なときほど、会社を売却できる可能性は高くなり、売却条件も良くなります。
しかし、そのようなときに、会社を手放すという決断をするのは容易なことではありません。経営者も人間ですから、「業績好調な今、会社を売ってしまうのはもったいない」「あと1、2年続けてから売却しよう」と色気を出してしまいがちです。
しかし、ここ数年の日本経済の浮き沈みや世界経済の乱高下を見てわかるように、現代の経済サイクルは非常に速く、今後の予測も難しい状況になっています。
売却の決断を先延ばしにした結果、市場環境が大きく変化し、売却のチャンスを逃したり、売却金額が下がったりしてしまうことが十分起こりえます。
それでは、経営者は、会社の売り時について、何を基準に判断すればいいのでしょうか?
私たちは、M&Aのベストタイミングは、経営者の経営意欲・情熱が低下したときであると考えています。
中小企業の経営者は、たいへんなプレッシャーの中で会社経営を行っています。それを支えているのが、「この仕事が好きだ」「従業員を守りたい」「事業で顧客や社会に貢献したい」「会社を大きくしたい」という経営者の意欲や情熱なのです。この支えを失ってしまえば、好きだった仕事はストレスとなり、心身の健康を害し、最終的には会社の業績も悪化してしまうでしょう。その結果、従業員や取引先に迷惑をかけることにもなりかねません。
経営者の意欲・情熱が中小企業の原動力であり、それが完全に失われてしまう前に、情熱や意欲を持った別の経営者や企業に、会社を承継するべきだと考えます。
会社や事業に対する、ご自身の意欲や情熱が薄れてきたと思ったら、業績や景気動向に惑わされず、M&Aを真剣に検討してみてください。
会社の売却時期について、経営者の意欲と業績という視点で書いたコラムがあります。ご興味ある方は「いつが会社の売り時か」をご覧ください。
(2)適切な売却価額
売り手の経営者が、高い売却金額を希望するのは当然のことです。これは、単にお金がたくさんほしいという単純な経済的動機だけではなく、長年手塩にかけて育ててきた、我が子のような会社を高く評価してほしいという、心情的な側面も強く影響しています。
一方、買い手は投資金額の回収を念頭に、当然できるだけ安い金額で買収することを希望します。
売買金額は、この売り手と買い手の相反する要望をすり合わせて、お互いに納得できる範囲で妥結して決定されます。(最終的に双方合意に至らなければ交渉決裂です。)
すり合わせの際に基準となるのが、売買金額の相場です。中小企業のM&Aでは、年買法(利益と時価純資産額に基づき売買金額を算定する手法)やEV/EBITDA倍率(営業キャッシュフローを重視した算定方法)による金額が、一般的に相場として使用されます。
交渉のスタート地点で、相場から大きく乖離する金額を提示すると、どんなにいい会社であったとしても、買い手は金額が高すぎると判断し、検討すらしないことがあります。
したがって、いい買い手に巡り合うためにも、自社の業績や財務状態を正しく反映し、さらに買い手に興味を持ってもらえる範囲の売却価額を設定することが重要なのです。
売却希望額の設定は、業種、売上・利益規模、財務状態、成長性、買収ニーズの強さなどを考慮し、慎重に行う必要があるため、実績豊富な専門家に相談すべきです。
インテグループでは、売却見込額の無料評価サービスを提供しています。ご興味ある方は、「企業価値算定サービス」からお申し込みください。
(3)柔軟な買い手候補の選定基準
買収に興味を持ち、最終的に条件提示をしてくる会社が多いほど、より良い条件で望ましい相手に売却できる可能性が高くなります。数社から条件提示をもらえれば、それぞれの買い手を比較・検討して選定でき、金額の引き上げ交渉もしやすくなります。
それでは、できるだけ多くの会社から条件提示を受けるためには、どうすればいいのでしょうか?それは、打診する買い手候補を限定しすぎないということにつきます。
ある程度幅広く打診したほうが、思いもよらなかった良い相手に巡り合い、売り手と買い手が相思相愛となって、M&Aが成立する可能性が高くなります。
売り手企業の経営者の要望で多いのが、「買い手は上場企業に限定してほしい」というものです。確かに上場企業は、買い手として安心感・安定感があります。また、上場企業に認められたということで、売り手経営者のプライドが満たされるという側面もあるでしょう。
しかし、上場企業はそれなりの売上規模を要望することもあり、すべての中小企業が買収の対象となるわけではありません。また、上場企業には、法律により厳格な内部統制の整備が要求されており、買収対象となる中小企業にも同様の整備が要求されます。買収前のデューデリジェンスもより厳格に実施されます。
そのため、上場企業とのM&Aは、中小企業同士のM&Aよりも、苦労や手間が多くなりがちです。
未上場の会社でも、立派な会社は多く存在しますので、特別な事情がない限り、上場企業限定などという条件をつけないほうが、M&Aの成功率は高くなるでしょう。
そのほか、「同業他社は避けたい」「同じ地域の会社は避けたい」など、買い手に対する希望や条件はいろいろとあるでしょう。
しかし、売り手側の経営者が、最終的に買い手候補を選定する基準は、ほとんどのケースで「買い手の経営者の人間性や経営方針(トップ面談時の印象)」と「提示された買収金額」の2点です。
最初からあまり絞り込んで可能性をつぶしてしまうよりは、どうしても譲れないという条件以外は柔軟性を持たせ、なるべくトップ面談には応じて条件提示を受けた上で総合的に判断し、譲渡先を選定をするほうがいい結果につながります。
(4)適切なM&Aアドバイザー
売却成功のポイントである売却価額の設定や理想の相手先を求めて買い手候補を探索、選定することは、売り手の経営者個人の力では困難であり、M&Aの専門家であるアドバイザーに依頼する必要があります。
しかし、アドバイザーの中でも、その能力と経験には非常に大きな差があります。また、取り扱う案件の規模や業界によっても、得意・不得意があります。
M&Aの成否は、アドバイザーの力量に大きく左右されるため、アドバイザー選びは慎重に行う必要があります。
アドバイザーを選ぶ際には、少なくとも以下の3点を注意すべきでしょう。
- ・ 完全成功報酬制であるかどうか
- ・ 情報力(多数の買い手候補とのコンタクト)があり、実績豊富であるかどうか
- ・ 仲介会社やアドバイザーが誠実かどうか
アドバイザー選びについてより詳しく知りたい方は、「M&A仲介会社の見分け方」をご参照ください。
また、関連記事として、「エムアンドエー(MアンドA)M&Aアドバイザーの見分け方」もご覧ください。
そのほか、会社売却の成功ポイントの詳細は、「売却成功のポイント」をご覧ください。
買い手にとってのM&A成功のポイント
(1)買収戦略の明確化
M&Aを成功させる上で、買収戦略を明確にすることは非常に重要です。
「他社が買収しているから、うちもやらなくては」「M&Aが流行っているから、なんとなく」「手元資金に余裕ができたので」「とにかく規模拡大したいから」といった理由で買収をしても、うまくいくはずがありません。
「買収の目的は何か」「買収により何を得たいのか」「どのような買収先が好ましいのか」などについて、中長期の経営戦略とすり合わせながら、明確にしていく必要があります。
そして、この買収戦略に基づいて、買収したい業種、地域、規模、予算上限などを具体的に決めていくのです。
弊社では、さまざまな会社から買収ニーズのご登録をいただいています。その中で、しっかりと買収戦略を練っている会社は、買収したい業種や企業のイメージが、詳しく、具体的になっています。一方、買収戦略が不明確な会社は、「何でもいいので、儲かっている会社を紹介してほしい」というレベルの買収ニーズしか持ち合わせていません。
買収対象会社の条件が具体的であればあるほど、案件を紹介された際の意思決定も早く、適切に行われますし、買収後の統合もスムーズにいくでしょう。また、案件を紹介するM&A仲介会社としても、買収ニーズが具体的なほど、案件を紹介しやすくなりますので、いい案件がより集まりやすくなります。
ただし、最初から厳密に買収ニーズを定めるのが難しい場合は、実際の案件を検討していく中で、徐々に基準を決めていくということもできます。
なお、買収戦略策定の根幹となる買収目的については、「14. M&Aにおける売却理由・買収目的とは」をご参照ください。
弊社サイトでは、買収目的別の成約事例を公開しています。買収戦略策定のケーススタディとして、「事業・会社買収目的一覧」をご覧ください。
また、併せて「企業買収の目的とメリット」もご参照ください。
(2)案件情報の収集
買収を成功させるためには、自社の買収ニーズにできる限り近い会社を買収することが最も理想的です。
しかし、現実には、買収ニーズを完全に満たす企業は存在しません。理想として描いている買収先と比べると、規模が小さすぎたり、財務に問題があったり、企業文化が違いすぎたり、取引先が偏っていたり、社員の質が低かったり、営業エリアがバッティングしていたり、内部統制が不十分だったりと、さまざまなギャップが出てくるはずです。
とはいえ、現実的になりすぎて過度に妥協し、ニーズとかけ離れた会社を買収するのは失敗のもとです。
中小企業の買収において、理想と現実のギャップを埋める最も有効な方法は、できるだけ多くの案件情報を収集し、比較・検討した上で、よりニーズに近い会社を買収することです。
つまり、案件の収集力が、買い手のM&Aの成否を分けるポイントなのです。
できるだけ多くの案件を収集するためには、以下のことを心掛けておくといいでしょう。
・複数の信頼できるM&A仲介会社や金融機関に買収ニーズを登録する
・登録する買収ニーズは、具体的・詳細なものとする
・M&Aに積極的であることを広報する
・M&A担当者の教育
案件が集まりやすいM&A担当者の条件については、「優秀な企業内M&A担当者の要件」をご覧ください。
(3)適正な買収金額
買収失敗で多いのが、買収金額が高すぎたというケースです。それには2パターンあります。
1つ目は、売り手企業の財務・業績に対して、買収金額が高すぎるというケースです。人気案件で他社と競合し、金額を引き上げざるを得なかった場合、将来の成長性を過大評価した場合、買収後のシナジーの見込みが楽天的過ぎた場合などは、結果的に過大な買収額となってしまいます。
しかしながら、魅力ある売却対象会社に対しては、当然複数の買い手企業が競合しますので、相場価格以上でないとなかなか買収することができないことも確かです。買収後に利益水準がどの程度になるかを慎重に分析した上で、いくらまで出せるかを検討しなければなりません。
2つ目は、売り手企業の評価額としては、適正な買収金額だけれども、買い手自身の財政状態に対して高すぎたというケースです。小が大を呑むようなM&Aとなり、買収資金を借入れにより調達し、その借入額が買い手本体の財務を圧迫してしまうことが起きてしまいます。
買収を成功させるためには、自社にとって適切な規模の会社を、適切な評価額で譲り受けることが大切です。また、M&A仲介会社への報酬、デューデリジェンスの費用なども買収価格に含めて考える必要があります。
(4)シナジーの実現可能性の評価
買収によるシナジー(相乗効果)を適切に評価することも、買収成功のためには重要となります。シナジーを過大評価すると、買収金額が過剰に高くなってしまうおそれがあるからです。
シナジーを評価する際に最も大切なことは、想定されるシナジーの実現可能性です。例えば、買収によるクロスセリングを期待するのであれば、どの顧客にどの商品を売るのか、その場合の流通チャネルはどうかなど、買収後の実現可能性を具体的にシミュレーションしておく必要があります。
また、買収によって売上や利益が下がる負のシナジー(ネガティブ・シナジー、ディスシナジーなどともいいます)も分析しておく必要があります。例えば、買収後のITシステムの統合にかかるコストなどです。スタンドアローン・コストといって、買収対象企業がグループ会社の1社である場合、そのグループから離れることによる負の影響も考慮しなければなりません。
念のため付言すると、M&Aはシナジーが必須なわけではありません。既存事業とシナジーがまったくない新規事業を獲得する手段としても、買収は非常に有効です。
気を付けなければならないのは、シナジーを過大に見積もり(あるいは負のシナジーを見落とし)、その結果課題な買収金額を投じて、みずからの企業価値を毀損してしまうことです。
(5)買収後の運営
シナジーの実現可能性にも関連しますが、買収したあとの運営状態によって、買収の成果は大きく変わります。
そして、買収後の運営の良し悪しは、新たに送り込まれる新経営陣のやる気と能力で決まるといっても過言ではありません。
買収先の経営者には、天下りの発想で親会社の不要な人材を押し付けるのではなく、意欲と能力のある、飛び抜けて優秀な人材を経営者として送り込むべきです。また、送り込む人材には、買収の検討段階から議論に参加させ、当事者意識と責任感を持たせておく必要があります。
また、買収後の統合については、ケースバイケースで最良の方法を考えなければなりません。買収後にできるだけ早く(例えば3ヵ月程度で)種々の制度を同化させたほうが良い場合もあれば、なるべく独立した経営を維持したほうが良い場合もあります。買い手と売り手のビジネスモデル、企業文化、給与制度などが大きく異なる場合は、社員のモチベーションの低下、ひいては業績低下を招かないためにも、拙速な同化は避けるべきでしょう。
企業買収成功のポイントの詳細は、「買収成功のポイント」をご覧ください。
12. M&Aを誰に相談すべきか
会社を売却したい、もしくは買収したい場合の相談先には、顧問税理士、金融機関(銀行・証券)、M&A仲介会社などが挙げられます。
大手の大規模な税理士・会計士事務所であれば、M&Aに取り組んでいるところもありますが、一般的な税理士・会計士は、各業界のM&Aの相場価格には精通しておらず、直接売り手・買い手の案件情報も持っていません。
銀行・証券は、メガバンクや大手証券会社はM&Aに力を入れていますが、買収価格が大きくないと取り扱わないところが多く、またM&Aのプロセスを進める場合は通常数百万円の着手金がかかります。
中堅中小企業のM&Aの豊富な実績、売り手・買い手の情報を持っているのはM&A仲介会社になります。M&A業界は、不動産のように業界内で案件情報を共有するようなデータベースは存在しませんので、基本的には各社独自で情報の蓄積をしています。したがって、質の高い一次情報を得ようとすれば、実績のあるM&A仲介会社に直接相談するのが最も効果的です。
なお、仲介会社に売却を依頼する場合は、秘密情報の管理、M&Aプロセスの厳密な一元管理をするために1社の仲介会社と専任契約(アドバイザリー/仲介契約)を締結するのが原則ですが、買い手が売り手の情報を集める際には、どこから良い案件が出てくるかわからないので、ある程度幅広く仲介会社、金融機関に買収ニーズを伝えておいても良いと思います。
13. M&Aを考える前の準備
M&A仲介会社に相談する前でも、事前に以下のような準備はしておいたほうが良いでしょう。
(1)関連書籍やWebサイトでの情報収集
関連書籍やWebサイトで、M&Aの流れや手数料体系、注意点などの基礎情報を集め、最低限の知識はつけておくといいでしょう。まったく基礎知識がない状態だと、具体的にM&A仲介会社に相談する際に、聞きたいことがわからなかったり、悪質な業者にだまされてしまったりすることがあります。
(2)M&A仲介会社についての情報収集
M&A仲介会社のWebサイトで、各社の報酬体系(着手金の・中間金の有無、成功報酬の計算方法、最低成功報酬額)、得意分野、成約実績、経営陣の経歴などをチェックしましょう。きちんとした仲介会社であれば、これらの情報はすべて公開してあるはずです。報酬体系や成約実績が公開されていなかったり、経営陣の経歴が載っていなかったりした場合は、その会社は避けたほうがいいでしょう。
(3)優先順位の明確化
譲渡価格を重視して譲渡をするのか、最もシナジーがある相手先のグループになるのか、とにかく従業員を大切にしてくれる買い手に譲渡するのかなど、どのような目的でM&Aをするのかということです。
目的によって、打診する先も同業、異業種、ファンドなど変わってきます。
M&Aアドバイザーと議論する中で方針を決めていくことができますが、ある程度ご自身でも何を優先したいかを考えておいてください。
(4)将来の売却を見据えた経営
今すぐではなく、数年後に譲渡することを考えたいという場合は、「6. 売却しやすい会社・企業とは」を参考に、業績向上と社内体制の整備に努めていただければ、売却できる可能性が高くなり、またより良い条件で譲渡できるようになると思います。
もし、将来譲渡せずに、IPO(上場)や親族への承継をするとなった場合でも、これらの施策は必ず役に立つはずです。
14. M&Aにおける売却理由・買収目的とは
中小企業の経営者が企業を売却する理由は、おもに下記の5つに分類できます。
- (1)創業者利益の獲得(アーリーリタイア、別事業の資金獲得)
- (2)後継者不在(事業承継、高齢、病気)
- (3)会社の成長・発展(大手傘下での安定経営を志向)
- (4)事業再編(選択と集中、ノンコア事業・子会社の売却)
- (5)先行きの不安(業績不振、事業再生)
実際に会社を売却した経営者が、どうして売却を決断したかについては、「企業・事業売却理由一覧」をご覧ください。
また、企業買収の目的は、おもに下記の6つに分類されます。
- (1)商品・サービスの拡充
- (2)規模のメリットの追求
- (3)周辺分野への進出
- (4)新規事業の獲得
- (5)ライバル企業の買収
- (6)事業の川上・川下への垂直統合
実際に他社を買収した企業の狙いについては、「事業・会社買収目的一覧」をご覧ください。
15. 譲渡に際してのリスク
売り手の経営者が売却検討を進めるにあたり、よく相談されるリスクや制約を以下にまとめました。
(1)情報の漏洩
売却活動をしているということが取引先や従業員に知られてしまうということはあってはならないことですが、仲介会社、金融機関の中にはノンネームシート(ティーザーともいい、企業名を特定しない概要書)を無断で買い手候補や提携先にばらまくところが多いので注意が必要です。
情報が独り歩きしてしまうおそれもあり、情報漏洩にもつながりかねないので、そのようなことがないようアドバイザーとしっかり確認すべきです。
(2)幹部、取引先、顧問税理士の反対
売却を検討していることを幹部や取引先に話をすると、本心かどうかは別として、必ず反対意見が出てきます。顧問税理士からも、顧問契約の解除の可能性もあってか、この相手は良くないのではないかとか、条件が悪いのではないかなどの反対意見が出てくることがあります。
しかし、企業売却というのは、ある意味経営者が独断で決めるべきものと考えます。相手先が決まった上で、誠意を尽くしてなぜこの相手先への売却を決断したかを説明すれば、必ず理解してもらえるものです。
(3)買い手との交渉が破談
売り手としては、ぜひこのタイミングで譲渡をしたいと考えていたとしても、買い手としては、買収は絶対にしなければならないものではありません。したがって、何かネガティブな情報が出てくると、買い手は、いつなんどきでも検討から降りる可能性があります。
したがって、常に第二、第三の有力な買い手の選択肢を持っておくことが必要です。
(4)従業員の雇用
譲渡後の従業員の雇用、待遇条件は非常に気になるところだと思います。しかしながら、ほとんどのケースにおいて、譲渡後も雇用と待遇条件は維持(または改善)されます。
なぜなら通常中堅中小企業において余剰人員はほとんどいないので、利益が出ているということは(利益が出ていないと売却自体が難しいといえます)、経営者の力量もありますが、個々の従業員の貢献も大きく、買い手としては逆に譲渡を機に従業員が辞めることを非常に懸念するためです。
(5)なかなかリタイアできない
経営者に対する依存度が大きすぎると買い手に判断されると、譲渡後も何らかの形で残って経営を継続または補佐してほしいと言われ、なかなか退けないということがあります。
相手先の方針や同業か異業種かにもよりますが(異業種の方が残ってほしいと希望する傾向があります)、譲渡前からなるべく権限委譲、組織づくりをしておくことをお薦めします。
(6)競業避止
買い手との最終契約では、譲渡後一定期間は、自社と競合する事業を直接または間接的にでもしてはいけないということが定められます。
後継者不在で高齢の経営者が売却する際にはほとんど問題になりませんが、売却してまた別のビジネスを立ち上げることを考えている経営者はこの点を認識しておく必要があります。
(7)損害賠償
交渉過程において提出した資料、説明した内容に虚偽があった場合や、譲渡前の事象が原因で買い手に損害を与えた場合は、譲渡後一定期間は損害賠償の請求を受ける可能性があり、その期間や賠償額の上限などが最終契約で定められます。
損害賠償を避けるためにも、正しく税務申告をして将来追徴課税を受けることがないようにしたり、交渉過程において誠実に情報開示したりすることが求められます。
16. 従業員への譲渡
他社への売却ではなく、従業員への会社譲渡を考える経営者は少なくありません。しかし、従業員による会社の承継は、以下のような問題点があり、なかなか簡単なものではありません。
- ・経営者の器、経営能力がある従業員がいない
- ・経営者になりたい従業員がいない
- ・会社借入金の連帯保証・担保を引き継ぐ財力のある従業員がいない
- ・買収できるだけの資金力がある従業員がいない
このように、従業員への事業承継は容易ではないものの、経営者として十分な意欲と能力を備えた従業員がいて、その会社が無借金もしくはそれに近い状態であり、また多額の創業者利益を望まないということであれば、従業員によるM&Aを実現できる可能性があります。
従業員への譲渡についての詳細は、「従業員への事業承継」をご覧ください。
また、成功事例として「パッケージソフト開発会社のM&A・売却・譲渡・買収」もご覧ください。
17. ファンドへの譲渡
未上場企業の経営権を取得するバイアウトファンドによる買収が活性化してきています。その背景としては、年金基金などの機関投資家や上場企業の資金が、最低でも二桁の利回りが期待できるファンドに流れてきているためです。ここではファンドに譲渡することのメリットとデメリットを挙げます。
<メリット>
- ・事業会社よりも良い金額条件が出てくる可能性がある。
- ・同業他社と売却交渉せずに譲渡することができる。
- ・会社の独自性が最も維持される可能性がある。
- ・ファンドに成長支援や管理体制の支援をしてもらえる。
- ・ファンドに譲渡してIPOを狙うことができる。その場合、譲渡時に再出資してIPO時の株価を上げ、創業者利益の極大化ができる。
<デメリット>
- ・数年後(通常ファンドの投資期間は3~5年後)に、どこに売却されてしまうかわからない。
- ・ファンドは銀行ローンで「レバレッジ」をかけて買収するので(LBOとよばれる)、譲渡後に会社でローンを返済していく必要がある。
日本ではファンドは「ハゲタカ」のイメージがつきまとい、ファンドへの譲渡は全体の2~3%程度といわれ、弊社の成約実績においてもファンドへの譲渡は5%ほどです(残りの95%は事業会社への譲渡です)。しかしながら、米国ではファンドへの譲渡は全体の20~30%といわれ、非常に一般化しています。
今後、日本でも成功事例が増えれば、ファンドへの譲渡の割合はもっと増えてくるものと考えられます。
成功事例として、「コンサルティング会社(売上:約100億円)のオーナーのアーリーリタイアに際して、経営陣がファンドとMBO」もご覧ください。