近年、大企業だけでなく、中堅中小企業のM&A市場においても、ファンドに企業を譲渡することが珍しくなくなってきています。
中小規模のファンドが増え、成功事例も増えているなかで、オーナー経営者がファンドに売却する抵抗感も薄れており、今後ますますファンド活用が増えていくことが予想されますが、本記事では、そもそもファンドとはどういうものか、またどのような企業がファンドの投資対象になるかについて説明します。

①ファンドとはどのような存在か?

まず「ファンド」や「投資ファンド」とはどういうものか説明します。
ファンドとは、資金や基金、またはそれらを運用する組織や団体を意味します。そのなかで、投資ファンドとは、投資家からお金を集めて投資し、利益を追求するファンドのことで、投資信託なども含む幅広い概念です。

その投資ファンドのなかに、「PEファンド」「バイアウトファンド」と呼ばれる近年M&A市場で買い手としての存在感を強めている投資会社があります。PEファンドのPEとは「プライベート・エクイティ」(private equity)の略で、未上場企業の株式を意味します。
「広義のPEファンド」は、ベンチャーキャピタル(スタートアップへの成長資金を提供する投資ファンド)などを含めて、未上場企業の株式を取得する投資ファンドを指しますが、「狭義のPEファンド」は、未上場企業の過半数の株式を取得し、経営権を得る投資ファンド(またはそのようなファンドの運営会社)を意味し、通常は、日本でも欧米でも「PEファンド」と言えば「狭義のPEファンド」を指します。
バイアウトファンドは「買収ファンド」を意味し、狭義のPEファンドと同義と考えて差し支えありません。

本サイトの記事では、ほかのファンドと区別せずにたんに「ファンド」と記載している場合は、「バイアウトファンド」のことを指しています。
なお余談ですが、企業を売却することを「バイアウトする」という言い方がされることがありますが(とくにIT業界やスタートアップ界隈で使われることが多い)、本来バイアウトという言葉には売却の意味は一切なく、誤用が広まったものです。

近年、日本企業の経営権を取得するファンドは、おおよそ年間100社に投資しています。日本の年間の推定M&A件数を2万件とすると、まだわずか0.5%にすぎませんが、大手企業の子会社・事業の切り出し(カーブアウト)や事業承継の受け皿としてファンドが活用されたり、ファンドによる企業価値向上の成功事例が増えてきたりしているなかで、確実にM&A市場におけるファンドの存在感は増しています。
その背景としては、以下のような要因があります。

1. 年金基金、金融機関、事業会社や海外投資家の行き場のないマネーが、最低2桁の利回りが期待できるファンドに流れ込んでいること
2. 大手のファンド運営会社にいた人材が独立し、新たに中小のファンドを設立していっており、中小企業のM&Aにもファンドが活用されるようになってきたこと
3. 成功事例が増え、経営者のファンドへ売却することへの抵抗感が薄れてきたこと

2について補足しますと、以前は「利益(EBITDA)が最低数億円はないとファンドの投資対象にならない」といわれていましたが、中小規模のファンドが増えたことで、EBITDAが1億円以下の中小オーナー企業にも投資するファンドがいくつも出てきています。
その結果、数千億円規模の超大型案件をになうファンドから、一桁億円前半の投資をするファンドまであり、ファンド業界の厚みがましています。

日本のM&A市場において、ファンドの活用が今後ますます進んでいくことは間違いありません。米国では、ファンドによる経営権を取得するバイアウト投資は年間約3,000件以上あります。日米の経済規模の差を考慮しても、日本におけるファンドによるバイアウト投資は、現在の数倍になってもおかしくないポテンシャルを秘めています。

②ファンドの投資対象になる企業とは?

ファンドの投資対象としては、一般的には、株式の処分や経営戦略において、解決すべき課題がある企業が対象になり、安定的に利益が出ていて、かつ成長性がある企業が好まれます。(急成長しているがまだ赤字というようなスタートアップは、通常ファンドの投資対象になりません。)
しかし、好んで再生案件に投資するようなファンドもあり、ファンドの投資類型としては、大きく分けて以下の5つがあります。

1.後継者不在企業のオーナーの株式取得(事業承継)
現在日本経済の大きな課題のひとつである後継者不在の事業承継を解決するために、ファンドに株式を売却するというものです。
オーナーが一部の株式を残して、数年間ファンドとオーナーが共同経営し、その後オーナーがファンドと共に株式を譲渡する「二段階エグジット」という手法もあります。

2.大企業の子会社・事業の切り出し(カーブアウト)
事業の選択と集中の観点から、ノンコア子会社・事業を売却し、それで得た譲渡対価でコア事業に経営資源を集中していきます。
その際にファンドがノンコアの受け皿になり、グループから離れた独立企業としての基盤をつくっていきます。

3.ファンド等の金融投資家間での売買(セカンダリーバイアウト)
ファンドのエグジットの方法としては事業会社への売却かIPO(新規株式公開)のいずれかが一般的ですが、ファンドからまたさらに別のファンドに企業が売却されることもあります。

4.上場企業の非上場化(ゴーイングプライベート)
典型的には、ファンドや経営陣らで設立したSPC(特別目的会社)が、友好的TOB(株式公開買付け)で大株主およびその他の株主から株式を取得し、少数株主も排除(スクイーズアウト)した上で、非上場化します。
短期的な業績へのプレッシャーを回避し、数年かけて事業の再構築をはかる場合などに用いられます。

5.事業再生(ターンアラウンド)
一般的にはファンドの投資対象としては、安定的に利益が出ている企業が好まれますが、事業再生の案件とは、現状は利益が出ていない会社を低い価格で買収し、事業の選択と集中、財務リストラにより利益体質にして、企業価値をあげていくものです。