一昔前であれば、ファンドに売却することに抵抗感を持つ経営者が大半でしたが、近年では、むしろファンドに売却することを希望する経営者も増えてきています。
本記事では、改めてファンドに売却するメリット、デメリットを整理して、お伝えしたいと思います。

①ファンドに売却するメリット

まずファンドに譲渡するメリットは以下があります。
ファンドは、事業会社の買い手よりもいい金額条件を出すことがしばしばあります。したがって、条件重視で売却をするのであれば、ファンドを譲渡先の選択肢に入れるべきでしょう。

ファンドが事業会社よりもいい条件を出すというのは、理論的にははっきりしない面もあります。なぜなら、本来、シナジーが最も大きい企業が最も高い価格を提示することができるためです。ファンドには事業上のシナジーはないので、理論的には、ファンドは、シナジーがある事業会社には価格では勝てないことになります。しかし、実際には、ファンドは事業会社よりもいい価格を提示して買収することがよくあります。
その理由としては、以下が考えられます。

理由①
たとえば、同業大手が買い手の場合、対象会社は自分達より格下で、ビジネスモデルもよく理解しているため、多額の資金を投資してまで格下の会社を買収しようとしません。
一方、ファンドは、IRR(内部収益率)の考え方で投資するので、プライドの問題などはなく、目標リターンが得られる可能性が高いと判断すれば、それなりの金額を投じることができます。

理由②
事業会社はその時々の事業環境、戦略や資金力により、買収先を積極的に探している時期と、既存事業の成長や立て直しに注力している時期があり、いつでも買収をしたがっているわけではありません。
一方、ファンドは投資すること自体が仕事であり、買収を進めていかないと投資家から無能と見なされてしまうため、景気の良し悪しにかかわらず、常に積極的に優良な買収先を探しています。

ほかのメリットとしては、売却交渉の際には、一定の秘密情報を買い手候補に開示する必要がありますが、同業他社などに秘密情報を開示することなく、譲渡することができます。
また、どこかの事業会社の傘下に入るわけではないので、親会社と制度が統一されることはありませんし、ファンドは現状うまく行っていることは変えようとしないので、会社の強みや独自性が維持されます。

それ以外にも、リスクマネーの供給(たとえば、同業を買収するための資金)、海外展開などの成長支援、および管理体制(ガバナンス、コンプライアンス)の強化などの経営支援を受けられます。

ファンドが投資した会社では、優秀な人材が採用できるようになるのもメリットです。
中小のオーナー企業では、なかなか実績、能力、やる気も申し分のないピカピカの人材を採用するのは難しいといえます。しかし、ファンドが投資した会社というのは、ファンドがその会社の将来性についてお墨付きを与えたことになりますし、ファンドの人脈からも優秀な経営人材などをひっぱってくることができます。

またファンドには必要な人材には相応の報酬を払うという考え方が浸透しているので、これまではほかの社員とのバランスもあり、特定のポジションに高報酬の人材をつけるということがなかった会社でも、企業価値向上に必要となれば、たとえば、経営企画の高報酬のポジションに、新規で人材を採用したり、内部から抜擢したりすることもあります。

最後に、ファンド主導で上場を目指すこともできます。
上場企業になれば、社会の公器として、信用性や知名度が向上し、顧客獲得や人材採用もしやすくなり、また成長のための資金調達もしやすくなります。