どのような会社であればよりM&Aで譲渡しやすいか、つまり買い手にとって魅力があるかについて、「社内体制」「財務内容・規模」「M&Aのプロセス」の観点から説明します。
以下に述べる内容は、これまで成功裏に譲渡できた会社の特徴を列挙したものですが、実際このすべてに当てはまる会社はまずありません。この中でいくつかでも当てはまっていれば、売却できる可能性があるといえます。
また、もちろん買い手との間でシナジーが大きければ大きいほど売却できる可能性は高くなるわけですが、シナジーは買い手によって異なるので、ここではあくまで売り手企業単体として見た場合の売却のしやすさについてお話しします。
M&Aしやすい会社の特徴①社内体制がしっかりしている
◎社内にノウハウが蓄積していて組織的に仕事をしている
◎決算数字が信頼でき(簿外債務もなく)、経営管理がしっかりしている
◎コンプライアンス上の問題がない
コンプライアンス上の問題がない会社が好まれるのもいうまでもありません。よく未払い残業代を請求されるリスク等が問題になりますが、どこまで細かく法令順守を求めるかは買い手によります。やはり一般的には買い手が上場会社の場合は、コンプライアンスに厳しいといえます。
M&Aしやすい会社の特徴②財務内容がよく、企業規模が大きい
◎売上・利益が成長または安定している(少なくとも構造的な赤字になっていない)
◎自己資本比率が高く、借入金が少ない
◎企業規模は大きければ大きいほどいい
財務内容のいい会社は当然に好まれ、また高い売却価格を設定することが可能になります。
とくに売上・利益が成長過程の会社が非常に好まれます。利益が出ていても年々売上・利益が下がっている会社の評価は低くなり、それだけで売却が難しくなります。
M&Aでは、利益は基本的に「実質利益」で判断されます。 オーナー企業では、とくに儲かっている会社の場合は、生命保険などで種々の節税対策をしていたり、過大な役員報酬をとったりして、会社の利益をあえて圧縮しているケースが多いものですが、それらの影響を排除して実質利益を見ます。たとえば、生命保険料はそのまま利益換算し、過大な役員報酬は、買い手が社長を出した場合の社長の報酬と比較して、それを上回る部分を利益換算します。
そうはいっても、決算書の数字を過度に(不合理に)重視するという「決算書バイアス」をもっている人もいるので、決算書の損益計算書上で利益を出しておくにこしたことはありません。
また借入金が少なく、自己資本比率が高い会社が好まれます。借入金はゼロであればベストです。
借入金の適正水準は業種や資産内容によって変わるので一概にはいえませんが、一般的に年商の2〜3割程度であれば、それほど問題はありません。年商の半分に近づくと黄色信号といえます。
企業規模は大きいほど売却しやすいといえます。
企業規模が大きくなっても買収に関する手間はほとんど変わりませんし、規模が大きければ属人的な要素が少なく、組織で仕事をしている部分が大きくなるためです。業績が一定以上の会社になるとファンド・投資会社の買収対象になってきますので、打診先の選択肢が増えます。
売上の最低規模は業種にもよりますが、2億円程度はないと、売却が困難になるケースが増えます。ただし、店舗ビジネスやストック型のビジネスであれば、売上1億円以下でも実質利益が出ていれば、売却できる可能性はあります。
M&Aしやすい会社の特徴③M&Aのプロセスが適切
◎適切に売却希望価格を設定する
◎買い手からの質問に誠実かつ迅速に答える
◎M&Aの交渉中も月次の業績を維持・向上させる
売却価格は、ある程度交渉の幅をみて、少し高めの希望価格を提示するのは問題ありません。 しかし、相場価格と比べて高すぎると、入り口の段階で興味をもってくれる会社がいなくなるため、売却希望価格は適切に設定する必要があります。いったん売り手から買い手に対して売却希望額を提示すれば、売り手から価格をあげるという交渉は難しくなるので、絶妙な希望価格の設定が必要になります。
買い手候補との交渉が始まると、買い手からさまざまな質問が出てきます。買い手としては、会社の内容を精査しリスクを把握する必要があるためです。耳が痛いことも質問してきますが、可能な範囲でこれらに対して誠実かつ迅速に対応することが好印象につながり、交渉を有利に進めることにつながります。
M&Aの条件交渉は、最初のアプローチから最終契約書の締結まで、2〜3カ月以上かかるので、その間にも月次の数字を都度開示する必要があります。月次の売上・利益が下がると印象が悪くなり、売却価格の減額要因にもなるため、売却を決意したあとも本業は絶対に手を抜かないようにしなければなりません。
以上、売却しやすい会社の特徴を述べてきましたが、もちろんすべてに当てはまる必要はありません。いくつかでも該当していれば売却できる可能性はあるので、あくまで参考としていただければと思います。
いますぐではなく数年後の譲渡を検討している場合であれば、「どのようにすれば売却しやすい会社になるか」という観点から経営改善していくのがいいでしょう。