株式会社ESI
中小企業の人材不足の問題を解決するには、大手企業への売却も有力な選択肢に
譲渡企業 | 譲受企業 |
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㈱ESI | ㈱アウトソーシングテクノロジー |
山梨県 | 東京都 |
人材派遣 | 人材サービス |
スキーム 株式譲渡 |
戦後最長の景気拡大が続く一方で、中小企業においては人材不足の問題が深刻化しています。山梨県と宮城県に拠点を持ち、半導体製造装置の開発・設計業務へのエンジニア派遣を行っている株式会社ESIもそうした企業の1社。業務は拡大しているが、自社の名前では人材の確保がままならず、これ以上の成長が難しいと判断した創業社長の石川淳さん(42歳)は、従業員や取引先にとっても最善の策として、M&Aによる会社売却を決断しました。
大手半導体製造装置メーカーにエンジニアを派遣
エンジニア派遣業務を手掛ける株式会社ESIを29歳の時に創業されましたが、その経緯について伺います。
もともと建築業界にいたのですが、友人の紹介で電気部品や電気系統のユニットを組み立てる会社に転職しました。当時、お客様として大手半導体製造装置メーカーの設計・開発担当者の方と出会い、エンジニアとして同社に派遣されたことが1つのきっかけとなっています。その方からのお誘いもあって、「自分で会社をつくるから、契約してください」と言って始めたのが株式会社ESIでした。
当時は、設計の仕事が楽しくて、派遣会社をつくるというよりは、自らフリーランスとして開発に携わっていきたいという発想でした。現場に入って、かなりの仕事を抱えるようになり、だんだん手が回らなくなって、知り合いの知り合いや、あまり経験のない人も連れてきて、とりあえず私の隣にいて、小さいことから少しずつ覚えてもらって、育てたのが最初の2、3人です。それでも人が足りなくて、募集をかけてどんどん人を増やしていきました。
業績も順調だったと思いますが、今回なぜ、42歳という若さで会社譲渡を決断されたのですか。
45歳ぐらいで仕事を辞めたいと思っていたからです。だから、社員ではなくて、会社をつくる道を選びました。自由になるためには、サラリーマンではなくて、別の働き方で稼いで、なるべく早く仕事を辞めたい(笑)。モデルとなるような人が身近にいたわけではありませんが、テレビや雑誌でそうしたアーリーリタイアメントを実現した人を見て、漠然とした憧れがあったのかもしれません。
聞くところによると、会社を売却し、しばらくリフレッシュ期間を取ったのち、新しい事業に挑戦したいというお考えがあるそうですね。
何をするかは、今のところまだ未定ですが、何かしなければとは考えています。
買い手候補に大手が名乗りを上げ、予想外の手応えを感じる
そもそもM&Aによる会社売却を検討されたのはいつ頃からですか
具体的に考え始めたのは3~4年前です。私が手掛けていたエンジニア専門の派遣会社は、昔はそれほど多くなかったのですが、当時ものすごく増えてきて、ESIの看板で募集をかけても、なかなか人が集まらない状況が続きました。仕事はあるのに採用が追い付かず、これ以上、会社として成長することが難しいと感じたことが1つです。もう1つは、私も現場を引退して、経営の仕事に専念するようになり、単純にどこかの会社がうちのエンジニアを引き取ってくれないかと考え始めたことが大きな理由です。
M&Aについて情報収集し、検討を進める中でインテグループと出会ったわけですが、なぜインテグループを選んだのですか。
地元の銀行に会社売却を相談したこともあったのですが、あまり頼りにならなかったので、やっぱり大都会で探したほうがいいのかなと思い、ウェブで検索して、最初に出てきたのがインテグループさんでした(笑)。
それは半分冗談で、他にも何社かウェブサイトを見てみたのですが、インテグループさんは同業他社のM&Aを手掛けた実績をお持ちだったので、ここが良さそうだと思いました。会って、話をして、聞くだけ聞いてみようというところから始まりました。一方で、うちみたいな会社がM&Aで売れるのかどうかという不安があったのも事実です。
2018年11月に初回の打ち合わせを行い、年明け3月から買い手候補の会社と面談も始まりました。その不安は杞憂に終わったわけですね。
正直、思っていたよりも反応が良かったというか、大手さんが手を挙げてくださったので、これはいけるなと思いました(笑)。意向表明書をいただいた3社さんは、いずれも首都圏にあるエンジニア派遣業務を手がける会社でした。
3社の中から東証一部企業の子会社のアウトソーシングテクノロジーさんを選んだ理由は。
条件面(金額)ももちろんありますが、エンジニア派遣業務を長らく手掛けてこられた中で、エンジニアの扱い方がよくわかっていらっしゃるという点がポイントになりました。エンジニアの派遣は、一般的な製造派遣と大きく異なり、クセのある人材を一人ひとり大事に扱っていかないといけません。アウトソーシングテクノロジーさんは、エンジニア派遣と製造派遣の両方を手掛けていましたが、それぞれの特性の違いをよく理解されたうえで、事業を行っているという印象を持ちました。
エンジニアのスキルレベルを買い手先が高く評価しプレミアに
買い手候補との面談が始まり、アウトソーシングテクノロジーのデューデリジェンスを受け、株式譲渡契約書締結まで、わずか半年足らずですが、振り返っての感想はいかがですか。
今思えば早かった。あっという間でした。とはいえ会社売却なんて初めての経験でしたから不安もあったのですが、インテグループの担当の加瀬さんがとても頼りになりました。何かあれば、加瀬さんに相談・確認し、加瀬さんの指示のままに必要書類などを揃えていったので、非常にスムーズに事が運んだと思います。
不安があったとすれば、従業員がどう思うかということでしょうか。ただ、大きな会社に譲渡すれば、景気が急変して、契約が打ち切られたときに、次の派遣先が見つからないといった心配もなくなるので、彼らにとってもいいことなのではないかと自分に言い聞かせました。
実際に相談されたM&A仲介会社はインテグループだけだと思いますが、改めてインテグループに依頼して良かったですか。
初回の打ち合わせを終えて、すぐに100社ぐらいの買い手候補の見込みリストが出てきたのには驚きました。そのリストを見ると、当然、知っている大手の会社も並んでいて、やっぱり山梨じゃなくて東京に出てきて良かったと思いました(笑)。
また、これは後から知ったことなのですが、インテグループさんは完全成功報酬制のM&A仲介会社で、成功しなければ報酬はいらないという点もいさぎよいですし、安心して依頼できると思いました。
売却なさって、満足されていますか。
株式譲渡と同時に役員を退任し、3カ月間の顧問契約を結んで、引き継ぎの最中で、まだまだ実感は薄いですが、満足しています。
加瀬さんに聞くところによると、従業員の名簿を出したときに、エンジニアのスキルレベルを買い手先に非常に高く評価されて、「自分たちが派遣している人材以上のスキルレベルがある」とおっしゃっていただき、プレミアをつけて評価いただけたのではないかと思います。。
それはESI社の人材教育の賜物ですか。
当社は企業規模的に従業員教育を施すことができなかったため、もともとスキルレベルの高い人材を採用していたことが大きいと思います。古い考え方かもしれませんが、派遣会社というのはプロフェッショナルしか派遣しないイメージが私の中にはありましたから、新人でも何でも人を送って、仕事をしながら教育するということはやってこなかった。そこだけはこだわってビジネスをしてきたつもりです。
会社売却を否定するのではなく柔軟に受け入れることも大事
ところで、石川様はトライアンスロンが趣味で、会社を売却した直後にもトライアスロンのレースに出場されたと聞きましたが。
出場する予定でしたが、実は神経痛がひどくなって、今年のレースはすべてキャンセルしました。M&Aに伴うストレスかもしれません(笑)。最近、だいぶ回復してきたので、徐々に走り始めてはいるのですが。
トライアスロンはどのぐらい続けているのですか。
もともと泳ぐのと自転車が好きで、嫌いなランを加えれば、トライアスロンに出られると思い、かれこれ3年ぐらい続けています。もっとも一般の人が出場する大会で、タイムがどうのこうのというより、とにかく完走することが目的。自分との戦いですね。
トライアスロンの良さは、普段の何とも言えない重たいものを、その苦しい瞬間だけはすべて忘れられるというところです。例えば、どこかに飲みに行っても、遊園地に遊びに行っても、来週の会社での打ち合わせはどうしようかと考えてしまうのですが、トライアスロンの最中は、そんなことを考える余裕がありませんから。
経営者は相談相手のいない孤独な職業ですから、トライアスロンを趣味にする人が多いのもわかる気がします。ところで、今後の予定は未定とのことでしたが、漠然としたプランはないのですか。
ぼんやりと考えているのは、人を雇わないで、自分一人でできるようなこと。それから、人のためになるようなこと、人に喜ばれるようなことをボランティアやNPO(非営利団体)でもいいから始められればと思います。地元山梨に残るか、東京に出るかもはっきりしていませんが、場所に関係なく、旅をしながら仕事で国内外を回るのもいいですね。
13年間、会社を経営してきて思ったのは、やっぱり自分は現場のほうが好きだということです。何をやるにせよ、次はとにかく楽しみたいですし、楽しめる会社にしたいです。
リフレッシュ期間を挟んで、また新たな事業に挑戦されることを期待しています。最後に、後継者不足などからM&Aを検討している経営者のみなさんにアドバイスやメッセージをいただけますか。
自分は違いましたが、経営者は自分の会社に思い入れがある人が多いと思います。だから、なかなか手放すことができないでいます。それは当然のことですが、ただ、今の世の中の動きを見ると、会社を売却するという1つの方法が、従業員にとっても、取引先にとっても、経営者自身にとっても、良い結果に結び付くことが大いにあります。それを最初から否定しまうのではく、柔軟に受け入れることも大事で、ちょっと立ち止まって、考えてみてはどうかと伝えたいですね。M&Aは決して悪いことではありませんから。