株式会社立山高圧工業
親族ではなく、第三者へ会社を譲渡
創業社長と次女がM&Aを選んだ理由
譲渡企業 | 譲受企業 |
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㈱立山高圧工業 | 日本ニューマチック工業㈱ |
愛知県 | 大阪府 |
ホースと継手の加工販売 | 機械設備 |
スキーム 株式譲渡 |
優れた技術を有し、ニッチでユニークなビジネスを展開しているにもかかわらず、後継者難から事業承継が進まないとすれば、日本のものづくり、ひいては日本経済にとって大きな損失となります。自身の年齢を考え、会社を譲渡することを決意した株式会社立山高圧工業の創業社長、坂本雅夫さん(75歳)と、新たに取締役社長に就任した次女の宮島潤子さんにM&Aに至った経緯と譲渡を終えての感想などを聞きました。
ホースと継手の圧着機で全国にビジネス展開
株式会社立山高圧工業は、ホースと継手の加工販売という、非常にニッチでユニークな事業を展開されています。1981年、坂本雅夫さんが38歳の時に創業したきっかけについて伺います。
坂本雅夫さん(以下、S):大学卒業後、アイシン精機に入社し、自動車のクラッチディスクの製造部門に長らくいました。クラッチディスクをつくるための資材の調達係を務めていたときに、今の仕事につながる下請けさんと出会い、そこの社長さんと「何か一緒にやろうよ」という話になって、事業を始めようとしたときに、工作機械で使うホースの継手に問題が起きて、継手を簡単に圧着できる道具があったらいいなということで、その道具を開発したのです。
その圧着機を展示会に出したところ、私たちが思っていたのとは別のところにニーズがあることがわかって、建設機械用の油圧のホースと口金具を取り付ける機械を開発したところ、これが全国的に売れるようになり、私も独立させてもらおうということで、名古屋地区で創業しました。
ホースと継手は、建設機械や工作機械、土木機械、水圧洗浄機などで使われているそうですが、どういったお客様にどのように販売しているのですか。1個当たりの金額はいくらくらいですか。
S:最初は建設機械のリース屋さんが多かったです。その後は、建設機械の修理屋さん、土木建設業者さんなどが徐々に増えていきました。価格は、継手の付いたホース1本が2万~3万円しました。ところが、圧着機があれば1割程度の2000~3000円で修理ができます。
修理ができなければ、当然、買い替えないといけないわけですが、それもすぐには手に入りません。3、4日は当たり前、1週間くらいは普通にかかります。それが自分たちの手で数十分で修理して、再使用できるようになるわけですから、たくさんホースを使うお客様にとっては、すごくメリットのある機械でした。
競合はなかったのですか。
S:大手メーカー以外にはなかったです。それを普通の町工場で、圧着機によって工事業者さん自身が修理できるようにしたというのが、全国的に普及した大きな理由です。知名度を上げるために、展示会には年に5、6回、10年くらい続けて参加しました。拠点はここ名古屋だけですが、お客様は全国にいます。
修理の単価から計算すると、まさにコツコツ積み上げていくビジネスですね。
S:ですから、種類がものすごくあるんです。普通のエアなどに使う低圧のものから、油圧に使う高圧のものまで、金具の種類だけでも7700種類くらいあります。形状の違いもあれば、ねじの違いもあり、用途によっては非常に複雑なものもあります。それらのほとんどを取り揃えていないと、お客様の要望には応えられないので、品揃えも仕事の大きなポイントです。
借入金がネックとなり第三者への売却を選択
1981年の創業から37年経ちますが、ビジネスは順調でしたか。
S:10年前にリーマンショックがありましたが、それまでは非常に順調でした。売ることよりも、部品を揃えるのに一生懸命で、あまり考えなくても、在庫があれば売れていく状態でした。それが2008年を境に売れなくなって、3割くらいは売上げが落ちたでしょうか。10年経ってようやく元に戻ってきたかなという感じです。
実は、2000年に水害被害に遭って、床上115センチくらいまで泥水に浸かったことがあります。大変な思いをしたのですが、まだ景気が良かったので、そんなに売上げは落ちませんでした。1カ月くらいは営業停止に追い込まれたのですが、その後はお客様がひっきりなしにやって来て、伝票も書かずに部品を持って行く、そんな状態が続きました。後から思い出して伝票を書いたものもありますが、そうやってでもまずまずの売上げがあったのです。
リーマンショックで売上げが3割落ち込み、10年でそれを戻して、メドがついたところで事業承継を検討したのですか。
S:まだ、完全に回復するまでには至っていませんが、私も(75歳と)高齢になってきたので、そろそろ次の代に譲りたいと思ったのですが、なかなか適任者がいなくて……。
会社には、長男の坂本壮石さん(元取締役)、次女の宮島潤子さん(現取締役社長)もいらっしゃったわけですが、何故、親族ではなく、第三者へ会社の譲渡を決意したのですか。
S:借入金が多かったことが大きな理由です。息子からは、「とても身代わりはできない」と断られました。そうであれば、これをそっくり肩代わりしてくれるところに面倒をみてもらったほうが、私もすっきりするし、親族も安心できると考えました。
これだけの種類の部品を揃えていくには、借入をしないとなかなか調達できません。種類が豊富にあるおかげで営業もせずお客様が増えていったところがありますから、お客様のためにも何とか事業は継続していきたい。そこで第三者を選択したのです。
数ある仲介会社のなかでインテグループに相談されたわけですが、なんでも日本経済新聞の記事を見て、問い合わせをされたそうですね。
S:2017年10月頃だったでしょうか。日経新聞でインテグループの藤井社長に関する記事を拝見し、インテグループさんは契約が成立しない限り報酬は取らない、完全成功報酬制のM&A仲介会社であると明記されていました。であれば、話を聞くだけでもと思ったわけです。それと、私の甥っ子が大手証券会社でM&A業務に携わっていて、彼にインテグループさんの評判を聞いたところ、「まじめにしっかりやる会社だよ」と聞いたので、それなら安心できるなと。
75歳というタイミングでの譲渡となりましたが、それ以前にM&Aを検討したことはなかったのですか。
S:それはなかったですね。リーマンショックの後は、とにかく会社を立て直したい、売上げを元に戻したいという一心でしたから、他のだれかに会社を任せるという気持ちはまったくなかったです。
売却先は近接業種の“最高の買い手”
日経新聞の記事をご覧になって、完全成功報酬制のM&A仲介会社である点に注目されて、インテグループを選ばれましたが、並行してほかの仲介会社に相談はしなかったのですか。
S:なかったです。甥っ子のアドバイスもあり、インテグループさん1社を信用することに決めました。
インテグループに依頼してよかったですか。
宮島潤子さん(以下、M):ものすごい数の買い手候補を挙げていただき、そのなかから打診してもらい、たくさんの会社の方とお会いできたのは良かったです。
5社と面談されたそうですが、どんな会社でしたか。
M:2社が投資ファンドで、1社が実際の譲渡先となった日本ニューマチックさん、もう1社も近接業種の会社で、残る1社は業種は遠いのですが、愛知県の会社でした。
5社と面談し、5社すべてから意向表明書の提示を受けるというのは、稀なケースであり、高く評価されたことは経営者冥利に尽きるのではないですか。
S:日本ニューマチックさんとお会いするまでは、正直ピンと来ませんでした。せっかく買ってもらっても、これからもっと発展していってもらいたいのに、その期待があまり持てそうもない雰囲気でした。今のお客様が日本ニューマチックさんの道具を使っていて、そのホースがほしいというニーズは昔からあったので、ここは最高の買い手だと思いました。結果的に私もいいタイミングで会社を売却できたなと自分で自分をほめています(笑)。
日本ニューマチックさんは、建機、空機、化工機などを製造していて、そこで使うホースと部品を御社がつくっていたり、修理したりしているのですね。
S:そうですね。そこで使っているホースを私どもで一手に引き受けることができれば、そんなにありがたいことはありません。もちろん、メーカーさんあっての話ですので、そう簡単にはいきませんが、時間をかけて解決していってもらいたいです。
売却金額は納得のいくものでしたか。売却に当たって、これだけは譲れないという条件はありましたか。
S:従業員の待遇を今まで以上にしてもらうことが第一でした。そのうえで会社を発展させていってもらいたいと伝えました。売却金額は希望金額から上積みしていただきました。少しでも手取り額が多くなるよう一定額を退職金として受け取る点についても、こちらの希望どおりで、すべての条件が満額回答だったと思います
仲介会社はたくさん声をかけるべきではない
会社そのものは日本ニューマチックさんに売却しましたが、長らく経理を担当された宮島潤子さんが新たに社長に就任することになりました、感想や抱負はいかがですか。
M:まだまだ実感が湧いていないのですが……。日本ニューマチックさんが事業についていろいろアドバイスをくださり、資金面も援助してくれると言っていただいているので、だんだん夢が膨らんでいるところです。隣の倉庫を改造したり、フォークリフトを導入したり、車を増やしたり、もっと快適に作業しやすく、従業員の負担を減らして、従業員の数も増やして、今までやれなかったようなことが、親会社についていただくことでできそうな空気にはなっているので、そこは楽しみです。
今後は、日本ニューマチックの本社(大阪)から役員や社員が定期的にやって来るのですか。
M:定期的にとは聞いていませんが、何かあればすぐに来ていただけます。すでにテレビ電話のシステムも導入しましたし、ネット環境も先方のシステム担当の方が来てくれて、本社のシステムとつながっているので、ものすごく軽快にコンタクトが取れる状態で、ちょっとわからないことがあっても、すぐに返してくださる状態です。
坂本さんの親族とはいえ、売却した会社の社長になるのに抵抗はありませんでしたか。
M: M&Aの話は以前から聞いていて、誰かが来るものとばかり思っていたので、正直驚きました。意向表明があった5社のいずれも、外部から経営者を持ってくるのではなく、今いる従業員の中から1人、役員を出してほしいという話は共通してあったみたいで、日本ニューマチックの織田望社長からも、18年間経理をやってきたし、創業者の次女ということで、ご指名いただきました。
宮島潤子さんが社長で、長男の坂本壮石さんも従業員として残って会社が運営されていくわけですが、お二人に期待していることは何ですか。
S:会社の基礎部分は私がつくってきたと思っていますので、あとはお互い意思疎通、話し合いを十分に持って仲良くやってほしい。それは会社全体、従業員全員についても言えることです。社長だからといって、何でも独断で進めないこと。従業員みんなの意見も聞いて、相談しながら話を進めていくことが大事だと思います。
坂本さんの今後のご予定は。
S:農業に関心を持っていまして、農業を始めようと資料を集めています。実は、しいたけやきくらげの栽培に興味があるんですよ。特にきくらげは、95%が中国からの輸入品で、国産品の要望がすごく高まっているそうです。これから成長が期待できる農産物と聞いて、私も始めてみようか考えているところです。
最後に、事業承継を目的として会社の売却を検討している経営者にメッセージ、アドバイスをお願いします。
S:まずはインテグループさんに声をかけるべきです(笑)。事前に本で読んだのですが、M&Aの仲介会社はあまり何社にも声をかけないほうがいいみたいです。普通、見積もりをとるときは、3社、4社の相見積もりが当たり前ですが、会社売却の場合は、あちこちに声をかけると返って混乱してしまうからです。
会社の売却には、ネガティブな見方も少なからず残っていますが、後継者難を理由に会社をつぶしたり、整理するのは最後の最後の話です。残された従業員もいますし、これまでの大事なお客様もいます。まずは、信頼できる専門家に相談すべきで、完全報酬制のインテグループさんは頼れる存在だと思います。