株式会社インターメディア
今後の環境変化を見据えて専門性の高い翻訳会社を売却 オーナー夫婦がM&Aを決断した理由
譲渡企業 | 譲受企業 |
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㈱インターメディア | ㈱ロゼッタ |
東京都 | 東京都 |
翻訳 | 翻訳 |
スキーム 株式譲渡 |
創業来30年をかけて一流の翻訳者を選りすぐり、シーメンスやバイエル薬品、中外製薬といった医薬・医療機器分野のグローバル企業を顧客に持つまでに成長させた、株式会社インターメディアのオーナー夫妻、岡野信之さん(60)と佐和子さん(56)。「会社売却は、自ら育てた会社への敬意の表し方」という二人に、M&Aを決断した経緯を伺いました。
英語学の研究者から英語教師を経て、翻訳会社を起業
インターメディアは医薬・医療機器分野を中心に専門性の高い翻訳業務を手掛けています。創業のきっかけは何だったのですか。
岡野信之さん(以下、N):大学院で英語学を専攻し、その後高校の英語教師になりました。小さい頃から教師になることが夢でしたが、理想とは違う職場に失望し、2年で辞めて、知人の紹介で翻訳会社に入り、ゆくゆくは翻訳者を目指そうと思っていたのですが、任された仕事は営業でした。ただ、小さな会社でしたので、営業だけでなく、翻訳の手配からチェック、編集まで一通り経験させていただきました。当時担当していたお客様の中から、「ここだけは」という1社を当て込んで、独立起業したのが29歳の時。そのお客様の近所に事務所を構えたのですが、結局、仕事は来なかったという、独立にはよくある話です(笑)。
とはいえ、1986年に創業されてから、最盛期には20人を超えるまでの規模に成長したそうですね。
N:営業マン時代に開拓したお客様の中には、今でもお客様になっていただいているところがあります。それも、バイエル薬品やシーメンスといった名だたるグローバル企業です。一流の翻訳者を確保し、お客様との間に入って良好な関係を築いていくことで、翻訳業務は順調に成長していきました。
さらに、翻訳に関連する業務として、コピーライティングやDTP(デスクトップパブリッシング)、デザイン、印刷といった周辺業務にも取り組んできました。加えて、インターネットが本格的に普及し始めた1990年代後半に、ホームページ制作やWebデータベース構築などの業務も手掛けるようになり、DTPオペレーターやデザイナーといった制作スタッフも自社で抱えるようになりました。
ところが、2008年のリーマンショックで売上げが急減したのを契機に、生き残りをかけて「選択と集中」を進めました。制作部門は完全に切り離し、フリーランスの優秀なDTPオペレーターに業務委託することとし、翻訳業務も一流の翻訳者だけにお願いできる案件に絞り込んでいきました。
何故、一流の翻訳者かというと、二流、三流の翻訳者に業務をお願いすると、それをチェックする者も在籍させないといけないからです。ミスが多いとクレームが入り、お客様が離れていってしまうため、営業マンを抱えて新規開拓を行う必要があります。一流の翻訳者であれば、ミスも少ないため、チェックが楽で、仕事の手離れも早くて済みます。優良顧客と一流の翻訳者の“コーディネーター”に徹すれば、少人数でもやっていけるだろうということで、リーマンショック以降は、夫婦二人と最小限の契約社員で経営してきました。
一流の翻訳者と二流、三流の翻訳者は何が違うのですか。
N:1つの英文を10人が翻訳すれば、10通りの日本語訳が出てくると思います。その中から「これはすばらしい」という1つがあるんですね。それが何かというと、翻訳の技術プラス、センスとでも言えばいいでしょうか。技術は業務や勉強を通じて身につけることができますが、そこから先のレベルに到達するにはセンスが必要になります。
私たちは学校で英文法を勉強してきているので、主語は主語、動詞は動詞、目的語は目的語として訳すという型にはまりがちです。10人中9人がそうなのですが、一流の翻訳者は文脈の中で主語と動詞を組み合わせて名詞扱いにしたり、形容詞や前置詞を動詞のように訳したりと、縦横無尽に翻訳するので、翻訳臭さがまったくありません。一流の翻訳者は頭が柔らかいというか、文脈の中で翻訳するのに対し、二流、三流はセンテンスの表面をなぞるだけになっていることが多いですね。
家族の健康と今後の環境変化を考えて売却を検討
今回、60歳という節目で会社を売却されたわけですが、売却を考えるようになった理由は何だったのですか。
N:実は一昨年、家内が難病にかかりまして、会社に出社できる回数が減ったことが大きな理由の一つです。もう一つは、家内の母が高齢になってそろそろ介護の必要性も出てきて、家内と母のために時間的余裕が欲しかったということです。
岡野佐和子さん(以下、S):主人は29歳で会社を設立して、土日も昼夜もなく働いてきました。それは健康あってのことですから、素晴らしいことなのですが、それでもときどき、平日にどこかに出かけたり、ゴルフに行ったり、そういう時間が欲しいとは50歳くらいから話をしていました。ここに来て、私の病気や母の介護という公然とした理由ができましたから、「えいや」と思い切ったところはあります。
N:後継者不在という理由もあります。私たちには子どもがいませんので、社員にのれん分けしようかとずっと思っていたのですが、この先の翻訳業界のことを考えると、たとえお客様と翻訳者をそのまま引き継いだとしても、経営はそう簡単ではありません。
S:それまでは、東京オリンピック(2020年)まではこのままがんばって、そのあとのことは、オリンピックが終わってから考えようなんて話していました。リーマンショックで売上げは半分になったけれど、会社の規模を縮小したので利益は確保できていましたから。ただ、気がかりだったのは、社員とお客様、外注の翻訳者様のことで、自分勝手なこともできないので、会社の今後については、ここ数年、答えが出ないままずっと悩んできました。
N:昨年、国の事業引継ぎ支援センターのことを知って、それでも、うちみたいな小さな会社は適用外だろうと思いながら新聞記事を読んでいたのですが、そんな折に母の通院の付き添いが多くなって、M&Aを意識するようになり、ネットで探した仲介会社がインテグループさんでした。電話をして、出でいただいたのが担当の依田(真輔)さんです(笑)。感じが良さそうだったので、一度会ってみようとなったのです。
同業他社の実績と着手金なしが選択の理由
インテグループにコンタクトされてからは、とんとん拍子でM&Aが進みましたね。
N:うちみたいな会社は売れないんじゃないかと半信半疑だったのですが、依田さんからは「大丈夫ですよ。売れますよ」と言っていただいて、当社の特長などをきちんとヒアリングしてくださいました。インテグループさんには翻訳会社のM&Aの実績もあったので、その辺の話も聞いたりしているうちに、お任せできそうだと、少しずつ希望が持てました。
インテグループさんと契約したのが2017年9月。M&Aの流れが書かれた資料を最初にいただいて、2~3カ月後には買い手候補が決まって、2018年1月にクロージングでしたから、そんなに早くできるものかと、あっけにとられたものです。
S:キツネにつままれたような感じでした。でも逆にそれが良かったかもしれません。クロージングまでの時間が長いと、売るのをやめようかとか、いろんなことを考えてしまうし、決断するのに勢いが必要なこともありますから。
複数の仲介会社を調べたり、アプローチした中で、何故、インテグループを選んだのでしょう。
N:繰り返しになりますが、翻訳会社のM&Aの実績があったことが一番大きな理由です。もう一つは着手金がなかったこと。うちみたいな規模の会社でもしっかり対応してくれそうな雰囲気がホームページで感じられたことも理由の一つです。
S:着手金をもし先に払っていたら、最初に提示された買い手候補の中から決めなきゃいけないということで、売り急いでしまったり、価格交渉でも妥協せざるを得ない状況に追い込まれる心配があります。でも成功報酬ですよと言われると、ゆっくり考えられるので安心感や心の余裕が持てました。成功報酬の仕組みは、インテグループさんにとっては大変だと思いますが、我々のような夫婦でやっている零細企業にとってはすごくありがたいシステムだなと今でも思います。
買い手候補の検討と選定、譲渡するまでに不安になるようなことはありませんでしたか。
N:その都度、依田さんに相談・確認し、アドバイスをもらっていたので、特別な不安はありませんでした。もちろん、M&Aなんて一生のうちに一度あるかないかの経験ですから、最初はわからないことだらけだったのですが、依田さんと二人三脚で進められたので、それぞれのプロセスで何を考え、どう対応すべきかははっきりしていました。
むしろ、一番怖かったのは、M&Aを決断した私たちに対し、社員から自分たちを見切ったというふうに思われはしないかということです。社長は誰になるのか、自分たちの身分は保障されるのか、彼らもいろいろな不安があったと思います。
ただ、そこはM&Aに至った理由を正直に話しました。個人的な理由もそうですが、翻訳業界を取り巻く経営リスクを考えたときに、従来通りのやり方では業務を続けることが難しいので、次善の策としてM&Aを選択したことを理解してほしいと訴えました。すると、社員からは心配していたのとは逆の反応が返ってきて、安心しました。
自社の強みを再認識することが成功のカギに
4社から条件提示があったそうですが、その中からロゼッタさんを選んだ理由は何だったですか。
N:第一希望は同業者でした。同業者のほうが、翻訳会社としての当社を正当に評価してもらえると考えたからです。4社のうち同業者はロゼッタさんともう1社で、残りの2社は異業種でした。ロゼッタさんを選んだのはAI(人工知能)を使った翻訳を手掛けていたことが大きな理由です。
株式譲渡に当たっては、譲渡価格のうち一定額を退職金として受け取ることと、譲渡後も私が継続して勤務することを希望していましたが、これらをすべて受け入れたうえで、好条件を提示してくださいました。
引き続きインターメディアに残って仕事をされているそうですね。
N: 3年契約で会社に残り、インターメディアの仕事を今まで通りやっています。先日、ロゼッタさんのAIを活用したシステムで翻訳したものをチェックしてくれないかと頼まれ、AIの翻訳を初めて見たのですが、80%くらいの精度があって正直驚きました。「これなら、二流、三流の翻訳者よりよっぽどいいですよ」と返事をしたら、「それでは今後、本格導入します」と言われて、新しい社長のお役に立てたようで本当にうれしかったです。
実際に売却して、よかったですか。
N:資金繰りから解放されたことは、精神的にも非常に楽になりました。同業者とはいえ、規模も性格も違う会社が、うまく手を携えてやっていくことには難しさも残りますが、そこは3年という時間をかけて、ゆっくり合わせていけばいいかなと思います。
会社売却を考えている経営者に向けてメッセージをお願いします。
N:当社のM&Aが成功した理由はいくつかありますが、まずはM&Aの仲介業者さんであるインテグループさん、そしてご担当いただいた依田さんのお力が大きいです。要所要所で的確なアドバイスをくださったり、さまざまな不安を安心や自信に変えてくれました。M&Aが進むにつれて、自社の強みを明確化することができ、これを理解してくれる会社に買ってもらいたいという気持ちが大きくなりました。ですから、これから会社を売りたいという経営者は、自社の強みを客観的な数字と合わせて再認識し、自信を持って売りに出してほしいと思います。自社の強みって中にいるとなかなか分からないのですが、M&Aの過程で、自社では当たり前と考えていることが意外にも大きな強みだったりすることもあるのです。
S:会社売却は、苦労してやってきた自分たちの会社への敬意の表し方でもあります。大切に育ててきた娘をお嫁に送り出す気持ちです。