株式会社トーキョーヴィジョン
業績好調企業がサーチファンドに譲渡を決断したのは「会社を変えるため」
譲渡企業 | 譲受企業 |
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㈱トーキョーヴィジョン | National Search Fund㈱ が支援するサーチファンド |
東京都 | 東京都 |
海外番組配給・動画制作 | 投資事業 |
スキーム 株式譲渡 |

1978年創業のトーキョーヴィジョン(本社・東京都港区)は、海外から仕入れた映像作品を日本国内のテレビ局に販売する事業を手がけています。競争が激しい業界のなかで40年以上の実績があり、取引先から厚い信頼を得てきました。代表取締役の吉森崇夫社長は、2024年10月、所有する全株式をNational Search Fund(NSF)(本社・東京都港区)が支援するサーチファンドに譲渡し、現在は共同代表として新社長を支えています。業績が好調のなか、会社の譲渡を決断した背景について吉森社長にお伺いしました。
これほど海外番組の映像を持っている会社はない
トーキョーヴィジョンは、どんな事業をしている会社なのでしょうか?
弊社は、海外で制作された映像を輸入し、日本のテレビ局に販売する配給会社です。
海外から輸入する映像はいろいろなものがあるのですが、簡単に説明すると、クライアントである地上波のキー局から「事件」「ミステリー」「動物」などの要望を聞いて、それに沿った最適な映像を探してくる仕事です。こちらから企画や提案をする場合もあります。日本テレビ系列の「世界まる見え!テレビ特捜部」にも、長年にわたって映像を配給してきました。
ほかにも、海外の番組制作会社から要望のあった日本の映像を撮影して、世界中に配給する事業も展開しています。当社にはカメラマンもディレクターもいるので、企画の立案から撮影、編集まですべて社内で制作できます。たとえば、海外の制作会社が世界中の料理を紹介するシリーズ番組を作っていたら、日本料理の回を弊社で担当するということもあります。
テレビ局からの信頼が厚いそうですね。
今年で46年目なので、海外映像のデータがかなり蓄積されており、依頼があったときに検索をすれば、すぐに映像が出てきます。弊社ほど海外番組の映像を持っている会社は多くないと思います。
社長に就任する前は、現場の社員だったそうですね。
先代の社長に誘われて入社したのが1999年。海外番組のリサーチのほか、小さな会社なので営業から制作費の調達までやっていました。
番組制作で、世界中の路面電車の映像を撮ってDVDにしたこともあります。いろいろな国に行きましたが、アメリカのような大きな国に行くことはあまりなくて、発展途上国に行くことが多かったですね。撮影中に軍隊に拘束されて、映像を消すように言われたこともあります。
現場で働いていたときは充実していましたか?
やっぱり、ゼロから何かをつくるというのは楽しいですよね。取材では、普段会うことができない人に会えるので、自分自身のなかの記録が増えていく。それを友だちに話せるというのも面白いです。
自分のなかに何か違和感があって…
社長に抜擢された経緯はどのようなものだったのですか?
先代の社長から「次の社長になってほしい」と言われたのは2014年で、私は39歳でした。先代はそのとき、すでに80代だったので、後継者は誰がなるんだろうなとは思っていましたが、まさか39歳の自分に指名が来るとは想像もしてませんでした。
引き継ぐにあたって先代からの要望はほとんどなかったのですが、ひとつ言われたのは「チャレンジをしろ」ということでした。既存のビジネスで成り立っている会社ではありますが、それ以外の事業を見つけて、新たに育ててほしいということでした。
それで始めた事業のひとつが、日本の伝統工芸品などを海外向けに販売するECサイトです。もともとは新型コロナウィルスが広がってロケができなくなったとき、何かできないかと考えたのがきっかけでした。それまでに日本の職人さんの技を紹介する取材をしていたので、宣伝用の動画や写真は自分たちで内製できます。そのようなこともあり、ECサイトをやることにしました。事業としてはまだまだ始まったばかりですが、これから成長させていきたいと思っています。
業績は順調なのに、会社を譲渡しようと思ったのはなぜですか?
2022年7月、48歳のときにとある病気になったことがきっかけでした。それまで働き詰めでしたが、自分自身のこれからについて少し考える時間ができて、会社についても次の展開が必要なのではと思うようになったんです。
「大手プロダクションに吸収される」「同業他社と合併する」「自分たちだけで拡大をする」など、いろいろなことを考えました。実際に、同業者から「一緒にやっていかないか」という誘いもありました。
ただ、自分のなかに何か違和感があって、決めきれない状態が続いていました。優秀な社員を外部から呼んできたり、また既存の社員に今以上に成長してもらうのも大切ですが、本当の意味で会社を変えるためには「経営者の交代」が必要なのではとも考えていました。
ここ数年は、自社制作の映像とECサイトの2つを新規事業で展開してきましたが、私の力では新規事業に必要な人材の獲得も、資金集めにも限界があります。その結果、事業の展開が遅くなり、タイミングを逃してしまうのは避けたかったという思いもありました。
会社を俯瞰して見ることができた
M&A仲介会社のなかで、どうしてインテグループを選んだのでしょうか?
最初はたまたまだったんです。M&A関連の営業は多いですが、それまで一度も話を聞いたことがありませんでした。病気から仕事に復帰して、次のことも考えないといけないなと思っていたときに、今回の担当をしてくれた北(隆寛)さんから電話がありました。それで面談をしたら、「業績は好調なのですから、すぐに決める必要はないので、時間をかけて考えていきましょう」と言われ、とりあえずリサーチから始めることにしました。
私もM&Aについて調べ始めて、わからないことを北さんに聞くようになりました。すると、私が理解できるまで調べて回答してくれる。買収の提案についても、私が納得するまで内容の分析に付き合ってくれました。
あと、インテグループさんは、着手金や中間金が必要ないのも、とてもありがたかったです。中小企業の場合、M&Aが成立しなかったら、着手金や必要経費は個人負担しなければならない可能性もあります。その心配がなかったのも大きかったと思います。
M&Aが成立して、よかったことはありますか?
会社を俯瞰して見ることができたことですね。ほかの会社が自分の会社をどう見ているのか。企業経営をしていると、意外と自分の会社のことを知る機会はありません。北さんと一緒に同業他社のリストを見ながら経営分析したり、買収提案をしてくれた企業から意外な質問をされたり。社外の人たちは自分の会社をこうやって見ているんだ、ここを評価してくれているんだ、ということがわかって、経営者としての視野が広がったように思います。
実は、いくつかあった提案でNSFの買収提示額はもっとも低かったんです。それでも、納得して結論を出すことができました。
外部の興味があるうちに判断を!
譲渡先にNSFが支援するサーチファンドを選んだ決め手は?
いただいた提案のなかで、もっとも「解像度」が高かったからです。弊社の新規事業にも興味を持ってくれて、成長をスピードアップさせるために必要な人材や資金もありました。いまの会社経営の柱である既存事業についても、新しいテレビ局への販路拡大を目指すことに積極的だったことで安心できました。
株式を100%譲渡したあとも、2024年12月現在で吉森さんはまだ共同代表として会社に残っているんですね。
譲渡が終わったら時間に余裕ができるかなと思っていたのですが、まったくそうではありませんでした(笑)。新しい社長は33歳で、業界のことについては、わからないこともまだたくさんあるので、しばらくは一緒にやっていくことになりそうです。でも、いまの若い人のスピード感はすごい。新しい社長が来てくれたことで社内のコミュニケーションの量も格段に増えました。これはやってくれそうだなという感触を得ています。
M&Aを検討している方たちに向けてのメッセージをお願いします。
さきほども述べたように、M&Aの準備を進める段階で、自分の会社を俯瞰的に見ることができるようになります。本当にM&Aをやるのか、やらないのか。その判断材料を得るきっかけとしても良い機会だと思います。
また、NSFは、優秀な経営者候補を買収先の企業に派遣し、再成長させる「サーチファンド」というモデルを通じてM&Aを行っていますが、自分たちの会社に新しい人材が入ることで、組織はどうなっていくのか、また社員と波長を合わせながら刺激し合って、お互いに成長できる環境を作ってくれるのかなどを事前に確認しながら進めることができたのも、とても安心感がありました。
あとは、外部の人から興味を持たれているうちに判断をしたほうがいいですね。業績が赤字になって、中核を担ってきた社員が会社を去ってしまったあとでは、魅力がありません。順調な経営状態だからこそ、新しい“会社の活かし方”を見つける手段のひとつとして、M&Aの意味は大きいと思います。