合同会社ライフタイム・バリュー
「人件費」へのひと言が決め手「この事業への理解を感じた」
譲渡企業 | 譲受企業 |
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(同)ライフタイム・バリュー | (株)テイクオーバー |
静岡県 | 静岡県 |
配食 | ペット・飲食等 |
スキーム 持分譲渡 |
静岡県内で食材やお弁当の配達をするライフタイム・バリュー(本社・静岡県静岡市)は、地域密着型の事業として地元住民から広く愛されてきました。しかし、赤字が続き苦しい経営状況に。そのような状況の中、青木審司代表(53歳)は同社の売却を決断。2023年12月、同社の全株式をペット事業や飲食業など、事業サポートを手掛ける株式会社テイクオーバー(本社・静岡県焼津市)に譲渡しました。譲渡から1年、青木社長に当時の思いと現在の状況を聞きました。
「この人から買いたい」という信頼関係
まずは会社の事業について教えてください。
ライフタイム・バリューは、一般家庭や高齢者施設、障がい者施設などに向けて、食材やお弁当の配達を行う会社です。主な営業エリアは静岡市と浜松市で、市場から仕入れた新鮮な野菜や当日製造のお惣菜など、毎日の食卓を彩る献立をお届けしています。
事業運営の特徴や強みはありますか?
毎日の配達を続けるなかで、配達員とお客さまの間には、まるで友人のような関係が築かれていきます。「この人から買いたい」という信頼関係が生まれてくるので、「人」が事業の肝だと思ってきました。この点は、通常の宅配サービスとは異なる点だと思います。
実際に、配達員と親しくなったお客さまが「ライフタイム・バリューで働きたい」と言って入社したこともありました。また、配達員に渡すためだけにジュースを買い足してくださるお客さまもいるなど、人間関係が希薄になってきている時代に、お客さまと温かみのあるつながりを築いていることが、強みだと思います。
「人が事業の肝」ということで、人材育成において意識してきたことはありますか?
「人材を育てる」なんておこがましいことは言えませんが、採用の際には「お客さまから嫌われない人」を選ぶように心掛けてきました。
人間ですから、ミスをすることもあります。しかし、ミスをしても誠実に謝罪し、しっかりと対応すれば、お客さまとの距離が縮まることもある。そのため、たとえ失敗をしてもお客さまに嫌われず、むしろ愛される人を採用するよう努めてきました。
幅広い年齢層の顧客がいるのも御社の特徴だと思います。高齢世帯への配達も多いそうですね。
私たちは、静岡市と浜松市の「高齢者配食型見守りサービス」の登録事業者でもあります。お弁当を届ける際に配達先の方の安否確認を行い、体調が悪い方や応答がない方がいれば、ご家族やケアマネージャーに連絡もしています。
この見守りというのは、いい加減な気持ちではできないです。「応答がないけど、家の前に置いておけばいいや」という対応をしていると、実際に家の中でお亡くなりになっているケースもあり得ます。
高齢者がこれからも増え続けるなか、そういう面でも社会的に必要な事業なのではないかと考えています。ライフタイム・バリューという社名も、お客さまと長くお付き合いしたいという思いを込めて名付けました。
事業を運営するなかで感じてきたやりがいを教えてください。
お客さまに喜んでいただけること、従業員が気持ちよく働いている姿を見ること、そして事業計画がうまく進むことなど、さまざまな面でやりがいを感じてきました。
特に、お客さまに私自身も配達をすることが多いのですが、この仕事を始めてから雨の日が好きになりました。というのも、雨の日に配達すると、「こんななか来てくれてありがとう」と感謝の言葉をいただけるからです。
お客さまとの距離が近いからこそ、喜びの声もダイレクトに伝えていただける。地域の方々に感謝されることが、この仕事の喜びだと感じています。
経営のプロに会社を任せたい気持ち
企業譲渡を決断した理由を教えてください。
いちばんは資金繰りの問題です。コロナ禍になり、最初はむしろ追い風となったのですが、だんだんとお客さまの買い控えが増えていきました。私たちは美容室や飲食店に配達することも多いのですが、その方たちがコロナでダメージを受けて、食材やお弁当を購入することができなくなったのです。
また、手元にキャッシュがないことで、事業を展開しようとしてもできない歯がゆさがありました。たとえば、静岡県の東部に営業所を増やそうとしても、事務所を借りたり、冷蔵庫を購入したりする資金がない。投資の元手となる資金がない状況では、これ以上会社を発展させられず、会社の譲渡を考えるようになりました。
事業を安定させ、発展させるためにM&Aをしたのですね。
その通りです。また、経営のプロに会社を任せたい気持ちもありました。私はもともと一介の会社員でしたので、経営のプロではありません。たとえば、価格設定にしても、どの値段がベストなのかを割り出すことが難しかった。
しかし、プロの経営者ならば、的確な判断ができるのだろうと思いました。価格設定は一例ですが、私に欠けている部分を補い、会社を強くしてくれる方に任せようと譲渡を決めました。
そのなかで、2023年12月にテイクオーバー社への譲渡が完了しました。決め手は何だったのでしょうか?
テイクオーバーさんにお会いする前にも、われわれに関心を示してくださる会社はありました。しかし、どの会社からも一様に「人件費が高すぎる」と言われたのです。
私には、人件費が高いと言われたことが心外でした。この事業は、配達員とお客さまとの人間関係が商売の要だからです。人件費を削減するために人員を減らせば、配達員は時間に追われてコミュニケーションも減り、運転も荒くなり、見守りもいい加減になるでしょう。「ありがとう。はい、じゃあね」という配達の仕方しかできなくなることが本当にいいのかと思っていました。
そのようななか、テイクオーバーの山崎(智輝)社長は、われわれの財務諸表を見て「人件費、安いね」とすぐにおっしゃったのです。その瞬間、この方はこの事業を理解しているのだと確信しました。後にも先にも「安い」と評価してくださったのは山崎社長だけでしたので、それが最大の決め手になりました。
譲渡後に変わったこと・変わらなかったこと
譲渡から1年が経ちます。譲渡後の変化について教えてください。
2024年の1月からテイクオーバーのマネージャーが来てくださり、ものすごいスピードで会社を変革していきました。価格の改定をしたり、カタログ作成費を見直したり、仕入れ先の見直しをしたり。最初の3カ月は非常に目まぐるしく、とても面白かったです。
そのなかでも、価格改定については、山崎社長がプロの経営者の判断で、私にはできない思い切った値上げをされて、感心しました。お客さまのために価格を据え置きたい思いもありましたが、事業を継続させるためには必要な判断だったと思います。
さまざまな改革のおかげで、利益率は大幅に改善されました。譲渡をしてから従業員も後ろ向きではなく、前向きに仕事ができるようになり、雰囲気も明るくなったように思います。
実際に事業展開で何か進展はありましたか?
新しい営業所を出そうという話題はたびたび上がりますし、さらにテイクオーバーさんがペット事業を運営していることもあって、新たに宅配ペットフード事業を始めることもできました。
宅配ペットフード事業では、動物病院にチラシやパンフレットを置かせていただいたり、受注システムの構築を進めたりと、さまざまな取り組みを行っています。これまで「毎月のキャッシュフローをどう回すか」ばかり考えていたので、新しいことに挑戦できる環境はとてもありがたく感じています。
譲渡をしてよかったと思いますか?
赤字が続いていたこの事業を続けることができ、会社の発展を目指せる状態になりましたので、十分に満足しています。
会社を譲渡しましたが、お客さまと配達員の関係性はなにも変わっていません。いまでも友人のように付き合い、見守りもしっかりと行ってくれています。その関係性を守れたことが、なによりもよかったと思っています。
何度も足を運んで寄り添ってくれた
インテグループの印象についても教えてください。数ある仲介会社から、どうしてインテグループを選んだのでしょうか?
インテグループさんは、最初にお電話をいただいて知りました。その際は、われわれのような業態に関心を持っている企業があるとのことで、一度、話を聞いてみようとお会いしたのです。結局、最初にご提案いただいた企業との話はまとまりませんでしたが、その後も継続的に買い手を探していただくことになりました。
多くのM&A仲介会社が初期手数料を必要とするなか、インテグループさんの完全成功報酬制は非常に助かりました。資金繰りに苦しむ私たちのような会社でも、安心して依頼することができました。
譲渡活動中のインテグループの対応はどうでしたか?
資金的な状況から、できるだけ早く売却したいと考えていたため、インテグループさんの迅速な対応には本当に助けられました。とても親身になって対応してくれたと思います。
また、テイクオーバーさんに試算表を提出する際には、担当の橋山さんが何度もサポートしてくださいました。初回の提出後に誤りが見つかり、私1人では修正が難しい状況でしたが、橋山さんは静岡に何度も足を運んで丁寧にサポートしてくれました。柔軟な対応と、問題があれば直接、寄り添ってくださる姿勢には感謝しています。
最後に、売却を検討している経営者に向けてメッセージをお願いします。
売却を検討されている方には、まずは動いてみることをお勧めします。M&A仲介会社に話を聞いたり、さまざまな人に相談してみたり、できることから始めてみてはいかがでしょうか。ただ悩んでとどまっている状態はよくないと思いますので、なんらかの行動を起こしてみるといいと思います。