ハイウェイメンテック株式会社
名古屋高速を支える技術を承継するため10年がかりで譲渡先を選定
譲渡企業 | 譲受企業 |
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ハイウェイメンテック㈱ | ㈱オーテクニック |
愛知県 | 愛知県 |
足場工事 | 各種工事、仮説資材レンタル等 |
スキーム 株式譲渡 |
建設現場や高所での作業を行うときに設けられる「足場」は、作業員の安全を確保したり、作業効率を高めたりするために欠かせない構築物です。
ハイウェイメンテック株式会社(本社・名古屋市)は主に高速道路まわりの足場工事の設計・施工管理を数多く手がけています。代表の川尻洋二社長(74歳)は足場工事の設計業務全般に携わるかたわら、会社の譲渡先を10年がかりで探していました。今回、譲渡の決め手となったのは何だったのか川尻社長にお伺いしました。
独自工法で名古屋高速の足場工事に貢献
今回の譲渡対象となったハイウェイメンテック株式会社が創業された経緯を教えてください。
ハイウェイメンテックは、主に愛知県下の官公庁工事や民間工事を受注し、施工を請け負う会社として1992年7月に設立されました。元は異なるゼネコン系の会社を統合したものです。
主な発注主は名古屋高速の維持・管理を行う名古屋高速道路公社です。当社は高速道路にかかわる各種工事のうちでも、足場工事の設計や施工管理を担当していて、組み立てなどの施工業務は外注しています。
ハイウェイメンテックの特徴や強みはどこにあると考えていますか?
業界団体である「仮設工業会」が承認した特殊工法である「パーフェクト工法」を用いた足場工事に定評があります。
この工法は落下物による事故をなくすことを目的として考案されたものです。当社はこの工法に早くから着目し、同業他社との差別化戦略として、数々の実績を重ねてきました。
当社が手がけているのは、ユニット化された鋼製の枠組みを使った全面板張りの吊り足場です。この工法は、高所作業車を使って空中で組むのではなく、地上で組み上げた足場を吊り上げるため、従来の方式に対して、コスト面でも安全面でも優位性があります。また、従来の足場に比べて隙間や段差が少ないため、資材類が落下せず、作業性に優れているのも特徴です。
この足場を使う標準的な「一括吊上げ吊下げ工法」は名古屋高速関連工事の60%で採用されているため、当社の強みを存分に生かすことができるのです。
事業運営のなかで、どのようなやりがいがありましたか?
工程管理が予定通りに進むことで発注主から喜ばれ、信頼を得られることです。当社の主力である一括吊上げ吊下げ工法は、高所作業車を用いる従来工法に比べて作業者が半数で済み、また夜間工事に伴う騒音への苦情がほとんどないため順調に作業が進行します。
私は会社を立ち上げる前は、ゼネコンの設計部門にいて、工事に関係する図面やデータを目の前に積み上げ、来る日も来る日も計算業務に追われていました。
その時期に修練したおかげで、足場を吊り上げるウインチの能力と足場の重量とのバランスや配置などを瞬時に判断することができます。
つまり、力学の仕組みを踏まえて現場対応することで「力」の兼ね合いを適切に判断し、安全で最適な足場を提案できます。
現場で戸惑っていては作業の流れを止めるし、作業員にも迷惑をかけるので、迅速な判断に昔から努めてきました。
65歳の節目を迎えて考え始めたM&A
事業は順調なのに、なぜこのタイミングでM&Aを検討し始めたのですか?
結果的には創業32年目にあたる2024年7月に株式譲渡の形で事業承継の運びとなりましたが、実は事業承継そのものは10年ほど前から考えていました。ですから、10年越しの懸案であったともいえるのです。
事業承継に関心をもち始めたのは、私が65歳の節目を迎えたころです。事業承継を他人事ではなく、自分のこととして感じ始めたのです。そこで、さっそくいくつかの会社にあたってみました。しかし、個人で事業承継をするには限界があり、私の理想とする譲渡先にはなかなか巡り合うことができませんでした。
M&Aを進めるにあたって、なぜインテグループを選んだのですか?
当社は、名古屋高速道路公社という公共性の高い発注主と仕事をしてきた実績があります。対外的な信頼も得られるようになり、会社そのものも順調に推移していました。そのような点に着目してくれたコンサルタント会社の仲介で、ある会社と事業承継の交渉を進めていたのですが、あと一息というところで破談となりました。
破断した理由は、最後の最後の局面で、双方の考え方の折り合いをつけることができなかったからです。
1日でも早く引退したいと考えていたとはいえ、納得いかない形で会社を手放すのは不本意であるため、破談となったことに後悔はしていません。
こうして頭を切り替え、仕切り直そうと考えていた矢先、インテグループの折田さんから声をかけていただいたのです。破談から3日後のタイミングです。破談の1週間前でも、1週間後でも、うまくいかなかったと思います。
インテグループの対応に満足していますか?
一言でいえば、私の意思を汲んで、スピーディーに交渉を進めていただいたことに感謝しています。今回のM&Aでは、4つの要望を伝えました。①適正な株価であること、②技術を引き継げる人材がいること、③愛知県内の会社であること、④迅速に進めることの4つです。
特に技術面では妥協しないつもりでした。図面を引けることと強度計算ができることは、いわば当社の肝であり、絶対に譲れない条件と考えていたからです。10年かかっても良い相手に恵まれなかった理由は、この条件を満たす相手が見つからなかったからです。
その点、折田さんはそれ以外の要望も含め、すべて私の思い描いたとおりの譲渡先を探してくれました。100社近くの会社にあたってくれた、その熱意にも感謝しています。
短期間で気心の知れる間柄になれた
打診開始から譲渡まで不安はありましたか?
お話をいただいてから譲渡に至るまでにもっとも神経を使ったのは、当社の事業を理解し、これまでどおりに運営する力量が先方にあるかどうかでした。図面を引けても強度計算ができなくては事業として成り立たちません。その逆もまたしかりです。つまり、図面と計算の両方できることが絶対条件でした。それを満たせなければ株式譲渡する意味がありません。
その点で、私の希望に沿う人と会社を紹介してくれたことに心から感謝しています。譲渡先の株式会社オーテクニック様からはすでにエンジニアが研修に来ていて、少しずつ当社の流儀になじんでもらっています。製造業などでは、人間の作業をロボットに置き換えることで省人化や合理化を進めていますが、当社の仕事の中核をなす強度計算は、作業をロボットやパソコンで置き換えることができません。
パソコンで強度計算を置き換えようとしても、扱うデータ量が膨大であるため実用的ではないのです。実際、処理能力をはるかに超える計算をさせられたパソコンがフリーズしてしまったこともあります。このような点が円滑な事業承継を阻む要因でした。
実際に譲渡をしてみて、どのような印象をおもちですか?
今回のM&Aでは、従業員の雇用継続や顧客に果たすべき責任に支障が生じないことを第一に考えました。インテグループさんとの初回面談は2023年11月で、それから8カ月あまりで最終契約締結にこぎつけることができたことを非常に嬉しく思っています。
オーテクニック様とは2週間に1回の割合で打ち合わせを行い、この間に忌憚のない話し合いを重ねることで、気心の知れる間柄になりました。互いの人柄も交渉をうまく運ぶのに役立ったと思っています。実際の交渉では、折田さんの親身な調整に助けられました。
交渉に臨むときには決して“盛らない”こと
譲渡先に期待していることはなんですか?
オーテクニック様は愛知県を中心に、建設工事や仮設資材レンタル、人材派遣など幅広い事業を展開しています。そのため、当社の事業もよく理解されており、互いが補完し合う関係を築くことができると思います。
特に主力の発注主である名古屋高速道路公社様や元請け会社などとの良好な関係を引き続き、保っていただくことを望んでいます。
譲渡後も顧問としてかかわるなかで、ご自身が取り組みたいことはなんですか?
もともとは私の個人的な人生観から始まっているM&Aですから、一応の区切りをつけられたことにホッとしています。
今後は引継ぎのために顧問として1年ほどかかわったあと、完全に引退する予定です。インフラにかかわる事業に携わるという社会的な責任を果たしたあとは、これまでなかなか実現できずにいた夫婦水入らずの旅をのんびり楽しみたいと考えています。
いまM&Aを検討している経営者にメッセージをお願いします。
交渉に臨むときには、絶対にウソをつかないことです。実態よりも大きく見せたり、飾った物言いをしたりしても、それはあとで必ずわかってしまうからです。今風の表現をすれば、決して“盛らない”ことです。正直な気持ちで向き合い、真摯な態度で助けてほしいと訴えれば、必ずいい結果が導かれると思います。私の実体験ですから、間違いありません。