株式会社システムKテック
半導体“復活”で業績好調のメッキ装置専門商社がM&Aで選んだ新たな道
譲渡企業 | 譲受企業 |
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㈱システムKテック | 中島物産㈱ |
福岡県 | 福岡県 |
メッキ機械卸 | 空調設備工事 |
スキーム 株式譲渡 |
株式会社システムKテック(本社:福岡県古賀市)は、メッキ装置専門商社として30年超の歴史を持ちます。バブル崩壊後の苦境を乗り越え、日本のモノづくりを影で支え続けてきました。事業は好調でしたが、創業者で代表取締役の渡幹夫氏(74)は高齢と後継者不在のため譲渡を決意しました。そして昨年12月、空調設備やプラント設備を取り扱う中島物産株式会社(本社:福岡県大牟田市)への株式譲渡が完了。そこに至るまでの経緯や想い、今後の経営方針について伺いました。
営業マンとしてメッキ業界に参入
創業前はどのようなキャリアを歩んだのですか?
高校卒業後、大阪に本社がある工業薬品を扱う会社に就職し、私はメッキ薬品を扱う部門で、福岡支店に配属になりました。その会社に5年ほど勤めたあと、同じ会社のメンバー数人と独立。そこで17年間、働きました。
日本が高度経済成長を続けていた時代です。日本に半導体産業が芽生え、九州はその生産拠点として発展していきました。大手電機メーカーが爆発的に設備投資をするようになり、工業生産がどんどん伸びていきました。それと足並みをそろえるように、私たちのビジネスも一緒に成長していきました。
半導体にメッキは欠かせない技術ですね。半導体のウエハーに積載する回路には細かな足がたくさん付いています。回路の足がしっかり付着するようにメッキ処理が必要です。サビを防止したり、電気の流れをよくしたりする効果もあります。
そうしたメッキ処理をする装置は数千万円から1億円ほどの単価で、たいへん高価なものです。専門的な知識がなければ、販売ができません。メッキ業界での長い経験と知識を武器に、営業マンとして取引先を開拓していきました。
どのような経緯でシステムKテックを創業したのでしょうか?
働きっぱなしで、年間10日くらいしか休まない生活を続けていました。好きでやっていましたが、家庭などいろんな面で支障が出るようになり、人生を立て直したいと思うようになりました。
まったく違う業界に入ろうと、うどんやそばなど麺づくりを学ぶ学校に入りました。その後、どこかのお店で修業に行こうとしていたころです。「渡さんがいないと困る」というお声をメッキ業界のお客さんやメーカーさんから言われたんです。そこまで言ってもらえるのはありがたいなと思い、またメッキ業界に戻ることにしました。そして1988年、「九州キダックス」という屋号で、金属表面処理装置の販売・メンテナンスを専門にするビジネスを始めました。1992年に法人化しています。
「メッキ処理」装置をオーダーメードで提案
これまで成長を続けられた理由は何でしょう。
創業後はバブル崩壊があり、円高が進むにつれて日本の産業が空洞化していった時代です。厳しい時期でしたが、自動車や電気機械、建築などあらゆる分野で取引先を広げていきました。
実はメッキは、身のまわりのあらゆるところで使われています。たとえば、自動車は一般的に800本前後のボルトが使われますが、全部メッキ処理されています。住宅のガラスサッシや水道の蛇口にもメッキが処理されています。弊社ではそうした処理装置を取引先の要望に沿ってオーダーメードで提案し、安全性リスクまで考慮して導入をサポートします。
きめの細かいサービスが強みなのですね。
大手企業は製造ラインを立ち上げる際、メッキの処理は外注化せずに内製化を進めています。弊社はそのお手伝いをする会社です。
メッキ処理装置は弊社が作るのではなく、外部のメーカーに作ってもらいます。求められるメッキ処理に応じて、「この装置はこの会社に作ってもらおう」と得意不得意に合わせて外注先を決めます。
製造ラインで必要なのは、メッキ装置本体だけではありません。電源が必要だったり、排水やガスを処理したり、温めたり冷やしたりする装置もいります。弊社はそのようないろんな付帯設備まで、すべてプランニングします。顧客ごとに要望が異なるため、いままで同じものはひとつとして作ったことがありません。装置の提案から稼働テストまで一気通貫でやり、後々は装置のメンテナンスもやっていきます。
特殊なノウハウが求められそうです。
化学薬品を扱う関係もあり、誰でもやれるわけではありません。いろいろな装置が付随するので、幅広い安全基準を知っておく必要があります。私はメッキに特化した業界で、会社員時代から50年の経験があります。お付き合いは広く、全国各地に取引先があります。メッキに特化した会社はいまや九州ではうちだけです。多くの同業者が消えていくなか、多方面の取引先があることで生き残れました。
最近、九州は半導体で注目を集めていますね。
2008年の金融危機で半導体産業は急激に落ち込み、日本のメーカーは競争力を失いました。しかし、最近は熊本県へTSMCが進出し、九州は「シリコンアイランド」と呼ばれ、関連産業が盛り上がっています。日本は半導体そのものの製造はおくれを取っていますが、半導体を作るための装置は世界の中で存在感を保っています。今後はモーターなどの制御や電力の変換を行うパワー半導体向けの設備投資が増えるでしょう。メッキの需要も期待できますね。
「縁」を感じた譲渡先
業界で確固たる地位を築いてきましたが、今回、譲渡を決断したのはなぜでしょうか?
私が高齢になったうえ、後継者がいなかったからです。息子は病気で難しく、従業員にも跡を継げる人材がいませんでした。廃業することも頭をよぎりましたが、取引先や従業員に申し訳なく思ってやめました。どうしたものかと悩んでいたとき、M&Aが活発になっているとニュースで知り、インターネットで仲介してもらえる会社を探したのです。
そこで知ったのが、インテグループさんです。ホームページに載っていた藤井社長の顔写真を見て、ピンときました。「この会社だ」と思い、ホームページから直接問い合わせをしました。2023年4月に初回の面談をし、6月に仲介契約を結びました。
譲渡の相手先は、どのような点を重視しましたか?
弊社は商社ですので、メーカーよりは商社のほうが合うだろうなと考えていました。また、会社が大きすぎず、ほどよい規模の会社を希望していました。大きすぎると会社としての方向性が見えにくく、弊社の事業が継続できるか不安だったからです。
50社ほどの候補先に打診していただき、3社と面談しました。最終的に、福岡県大牟田市に本社がある中島物産さんに売却希望金額と同額で手を挙げていただきました。同じ福岡県で近い距離にあり、取り扱う製品で接点があったこともご縁を感じました。2023年11月に基本合意し、譲渡の実行は12月25日のクリスマスです。
ほかの2社はメーカーだったので、M&Aではなくビジネスの取引先としては今後もお付き合いをさせていただきたいと思っています。
譲渡を終えたあとの率直な感想は?
仲介契約から半年ほどの短い期間で決まったので、「もう少し手を広げて、もっとたくさんの会社と知り合ってもよかったかな」という思いはありました。ただ、実際に決まって無事に譲渡を終えたことの達成感は大きいです。
会社の社長をやっていると、銀行借り入れやリースなどで個人保証を求められます。「もし自分に何かあったらどうしよう」という不安が常にありました。譲渡で個人保証が解除されるので、その心配から解放されることもうれしいです。
譲渡活動を通して苦労した点は何でしょう。
資料集めや質問への回答ですね。もともと弊社は少ない人員ですので、M&Aに取り組む体制はできていませんでした。そのため、すべて私が1人でやりました。譲渡の候補先からものすごい量の質問が来ましたが、徹夜してでもなるべく早く回答するようにしました。インテグループの折田さんからは「ここまで協力してもらえるのは珍しい」と言っていただきました。
業績好調で「受注4倍」
今後の経営方針を教えて下さい。
弊社も中島物産さんも、初めてのM&Aになります。まずはお互いを知る段階です。そこを無視して進むとうまくいきません。時間を作ってじっくり関係を深めていきたいです。
弊社はここ1~2年、受注が大きく伸びています。これからも仕事は忙しくなる見込みが立っており、将来的に中島物産さんの大きな柱になる可能性を秘めていると考えています。
弊社のネックは人材が集まらないことでした。会社の規模が大きくなれば見栄えがよくなり、人材を呼び込みやすくなります。さらに事業を広げることができます。弊社には技術はあるので、本社から人材面で支援をいただければ、もっと成長できると考えています。
受注が伸びているなかでの譲渡だったのですね。
ここ最近は、経験したことがないほど好調でした。自動車関係から大口の受注があり、通常の年の4倍ほどの受注がありました。業績が良く、受注残が膨らんでいたなかでの譲渡活動となりました。それが弊社の印象を良くしたので、譲渡にはプラスに働いたと思います。大口の受注をこなしつつ、譲渡活動をするのはとても大変でしたが、インテグループの折田さんからは「いまのタイミングが良いですね」と言われていました。M&Aが早期に決まった理由のひとつだと思います。
今後、社長ご自身の働き方はどう変わりますか?
譲渡後、しばらくは社長を続けます。私は、社長業よりも、営業が大好きです。この歳になっても全国各地を営業で飛び回り、M&Aのあとで億単位の受注を2つ獲得しました。社長業の引き継ぎをしつつ、営業活動は続けていく方針です。「経営する社長がいない」という理由で会社を譲渡しましたので、中島物産さんから後継者を出していただくことを期待しています。
まだまだ現役生活が続きますね。
現在74歳ですが、77歳くらいまでは少なくとも元気で働きたいと思います。ただ、いままで仕事一筋であまり長期の旅行をしたことがありません。仕事が落ち着いたら、1週間とか長めの旅行を家族としてみたいですね。
最後にインテグループへの評価と、譲渡を検討する経営者にメッセージをお願いします。
まず、ご依頼通りの条件でM&Aが「成立した」ということに感謝しています。折田さんには、最低でも月2~3回、当社まで足を運んでもらい、とても密にやりとりさせていただきました。電話やメールでは、分かりにくいニュアンスのことも対面で丁寧に教えてくれました。食事をしたり、プライベートな話ができる関係性を持てたのも楽しかったですね。
日本には小さい会社が多すぎます。弊社のような後継者不足や人材不足に悩む会社がたくさんあります。私の業界でも後継者がいないため、どんどん会社が減っていきました。職人がいなくなり、日本の貴重な技術やノウハウが失われてしまいます。日本のモノづくりを残すためにも、M&Aは大切な手法ですね。