株式会社Coco・株式会社内職市場
仕事は面白いしやりがいもあるが…「内職業」全国チェーン創業者が事業承継で選んだ道
譲渡企業 | 譲受企業 |
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㈱Coco・㈱内職市場 | なごやホールディングス㈱ |
愛知県 | 愛知県 |
BPO | 事業承継支援 |
スキーム 株式譲渡 |
「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり」。織田信長が好んで舞ったことでも知られる幸若舞(こうわかまい)の演目「敦盛」の有名な一節です。俗に「人生50年」と称され、人生が短いことの例えに用いられます。全国で内職フランチャイズチェーンを展開する内職市場(本社・愛知県春日井市)と親会社・Coco(本社・同市)の株式を譲渡した両社の創業者、作野薫氏(61歳)の決断を促した人生観でもあります。一代で独自の事業を築いた作野氏の気持ちを動かしたものはなんだったのでしょうか。
会社が社会貢献していることに気がついた瞬間
今回株式譲渡した株式会社内職市場と株式会社Cocoの創業の経緯を教えてください。
内職市場はその名の通り、内職で軽作業やデジタル作業を請け負うBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業を展開する会社で2006年8月に設立しました。前身は1992年に起業した有限会社エフ・ブイサービスで、試行錯誤の末、内職業に特化しました。現在、全国で直営、フランチャイズ(FC)合わせて約100店舗を展開していて、直営店で約650人、FC店含めると約6,000人の「内職さん」と業務委託契約を結び、軽作業を中心にさまざまなクライアント企業からの仕事を引き受けています。
Cocoは2021年1月に設立した会社で、コンサル事業、動画コンテンツ事業、会員サービス事業などを行う予定でしたが、いずれも稼働しておらず、実質的には内職市場の持株会社として機能しています。内職市場は2016年、資本提携した他社の100%子会社となりましたが、2022年に提携を解消したため、Cocoが全株を譲り受けた格好です。
内職市場の特徴や強みはどこにあると考えていますか?
高度経済成長期には全国で180万人以上が内職に従事していたと言われています。しかし、現在は12万人程に激減しています。要するにマーケットが縮んできた。一方で、内職業を運営する会社の事業承継は進んでいません。だから、需要と供給の間に一種の空洞ができるのです。内職市場が事業展開することによって、その空洞を埋めることができるのではないかと考えました。
しかし、クライアント企業から内職に向いている仕事を引き出すのは容易ではありません。基本的に、内職でできる作業は自社内でしか対応できないと考えているからです。そこでクライアント企業には「この作業は内職でできます」と積極的に提案しました。クライアント企業も、自社内の作業を内職へ置き換えられることに気づいていなかったのです。つまり、内職の仕事を広げる余地はあるのです。
事業運営のなかで、どのようなやりがいがありましたか?
内職さんは育児中の主婦が多く、そのため、どうしても子ども中心の生活になるので、定時の仕事に就くことができません。いわば、労働としては立場が弱いです。あるとき内職さんの1人に、「この仕事は、自分の時間が有効に使えるのでありがたい」と言われたのです。
誤解を恐れずに言えば、会社設立の動機として、私はお金持ちになりたかった。その手段として内職業を選んだわけです。そんな自分に内職さんの言葉は心に刺さりました。会社が社会貢献していることに気づくことができたからです。
法人としては伸びる余地がある
なぜ会社の譲渡を検討し、決断したのですか?
内職業が世の中の役に立っているという確信はありました。しかし、そのエリアは限定的(主に本店のある東海圏)です。そこで、エリアを全国に広げることにしました。FC展開です。30代で起業し、40代でFC展開を始めました。ところが「人生50年」と言われるように、50代も半ばになると肉体的な限界を感じるようになりました。
しかし、仕事は面白いし、やりがいもある。ですから、個人的には疲れているけれども、法人としては伸びる余地があるので、できれば伸ばしたいと思いました。そこで、自分の思いも含めて、これまでの事業をすべて引き継いでくれるところを探し始めました。
そこから譲渡までスムーズにいきましたか?
譲渡先を探す過程で、インテグループさんとの縁ができました。初回面談は2023年のバレンタインデー(2月14日)です。3月9日に仲介契約を結び、5月31日にはM&Aによってさまざまな企業の事業承継に取り組んでいる「なごやホールディングス株式会社」と面談しました。そして、8月21日に最終契約書を交わし、28日に譲渡が実行されました。実にスピーディーな展開です。
打診から譲渡まで、わずか半年で済ませることができた理由のひとつは、一度も不安を感じることがなかったからだと思います。私自身、これまで何回も破産寸前までいっています。それにもかかわらず、なんとかしのいでこれたのは、量子力学を学んでいるからです。この学問を学ぶと、人の動きや世の中の流れが違って見えてくる。物事を俯瞰して見ることができるようになります。ですから、通常、不安と言われる概念を感じなくなるのです。
50歳を過ぎたら決めていたこと
人生100年時代と言われますが、やはり50年という節目は重かったですか?
若いころから「自分の人生は50歳で終わる」と思って生きてきました。しかし、48歳のときに「このままだと50歳を超えてしまう」ことに気づきます。そこで、50を過ぎたら、これまでの経験を次の世代に伝えていこうと決めました。後半生の使命です。
伝える手段として、まず心理学を学びました。カウンセラーの資格も取りました。しかし、ほしい答えが見つからない。その後、脳科学や生物学を学んだのですが、しっくりこないのです。最終的には出家しました。ですから僧籍もあります。宗教の世界に触れたあと、巡り合ったのが量子力学でした。不安を不安と受け止めない心の持ち方はそうしたさまざまな体験を通じて培われたと考えています。
なぜ、譲渡先としてなごやホールディングスを選んだのですか?
厳密に言うと、意識的に選んだというよりも、“お話に乗らせていただいた”という感覚です。きちんとした意向表明書を出していただいたのがなごやホールディングスさんだったのです。
私自身、人間である以上、ああしたいこうしたいという思惑はあります。しかし一方で、そういう気持ちは捨てるようにしています。執着心を消すのは困難ですが、できるだけ、そうありたいと思っています。すべて自然の流れに委ねることです。仏教でいえば、「他力本願」ですね。
譲渡について、家族や従業員にはどのような話をしましたか。また、その反応は?
今回の株式譲渡に限らず、これまでも自分の行動をまわりに事前相談したことはありません。ですから、今回のことも「あ、何か動いているな」ぐらいで見られていたと思います。長男と次男も従業員として働いているのですが、親子だからといって分け隔てせず、8月28日の譲渡日に伝えています。息子たちの受け止めも淡々としたものでした。
「良かった」の上をいく非常に満足な結果
譲渡後も顧問としてかかわるなかで、ご自身が取り組みたいこと、実現したいことは?
事業運営や今後の展開に関しては、なごやホールディングスさんにお任せしてあるので、私の立場で余計な口を出すのは失礼だし、そうするつもりもありません。
ただし、事業に直接的にかかわらないことで言えば、これまで学んだり自分なりに研究してきたりした量子力学の考え方をまとめたメソッドを世の中に問いたいという強い思いはあります。「量子力学的人生創造論」と名付けて、5年ほど前に原形をつくりました。それから日々、ブラッシュアップを重ねて現在に至ります。悩める人を助け、夢を追いかけている人を応援するのに役立てたいと考えています。
なごやホールディングスへの譲渡に満足していますか?
正三角形の頂点に「良かった」、底辺に「悪かった」という評価があるとするなら、いまの気持ちは頂点の上にあります。なごやホールディングスさんのメンバー1人ひとりが個性的で、実に楽しそうに仕事をしていることが非常に印象に残っているからです。
何事も、楽しいことは続けられるし、伸びていきます。やらされているのではなく、生き生きと取り組んでいることが伝わってくる。そういう人たちに引き継いでもらっているのですから、まったく心配はしていません。
なごやホールディングスに期待していることはなんですか?
内職業に息づいている「文化」を現代の技術を駆使して、さらに大きく伸ばしてほしいということに尽きます。今回の譲渡を決断する3年前に内職市場の代表を退いていて、50歳を節目として自らに課したミッションを少しずつ進めていたわけです。その意味で、今回の株式譲渡は私にとってひとつの大きな区切りといえるでしょうね。
「内職」に偏見を持たない姿勢に好感
M&Aを進めるにあたってなぜインテグループを選んだのですか?
端的に言えば、担当の松本さんの行動力です。同じ時期に2社から営業されたのですが、松本さんはすぐに駆けつけてくれました。内職業に対する松本さんの接し方にも好感を持てました。
初めて弊社を訪れる人の多くは「上から目線」で内職という仕事をとらえがちです。その点、松本さんは同じ目線で接してくれました。これは意識的な振る舞いではなく、松本さんのキャラクターによるものだと思っています。
担当者の対応に満足していますか?
もちろんです。私の気持ちを伝えるのに、満足という言葉では足りないくらい感謝しています。物腰の柔らかさや的確な指示にも助けられました。いま何を用意すべきか、次はどう動くべきか、といったことに対しても、単刀直入な指導をしていただけました。
振り返ってみると、初回面談から譲渡実行までの半年間は本当に楽しかったし、交渉に臨むたびに、いつもワクワクしていました。やはり、こういう場面でも、楽しく過ごせるという心のありようは大切だと思います。
最後に、いま売却を検討している経営者にメッセージをお願いします
多くの経営者にとって、売却は未経験でしょう。したがって、初めの一歩は怖いはずです。怖いのは、M&Aの知識がないからです。会社を売る、売らないは別にして、まずは気楽な気持ちで相談してみることから始めてもいいのではないかと思います。相談したから必ず売らなければならないというものでもありません。決断は、いろいろな知識を得てからでも決して遅くはないはずです。