株式会社サンエー
「私がやりたかったことを実現しようとしている」山形の金属加工会社が譲渡を決めた理由
譲渡企業 | 譲受企業 |
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㈱サンエー | RCホールディングス㈱ |
山形県 | 東京都 |
金属切削加工業 | 持株会社(各種製造業) |
スキーム 株式譲渡 |
ステンレスをはじめとする高度な金属加工を山形県内で行う株式会社サンエー。その2代目社長の三澤和久氏と、妻で主に経理と人事を担当する取締役の三澤優子氏は、2023年1月に製造業の企業グループ、RCホールディングス(本社・東京都千代田区)に全株式を譲渡しました。M&A成立後は2人とも顧問という立場で、引き続き会社に残るとのこと。近年は売上も好調で、まだ50代の2人が、なぜ株式を譲渡したのか。決断の背景をお伺いしました。
大切にしてきたのは社員を守ること
創業の経緯を教えて下さい。
三澤和久(以下:和久) 創業は1963年、先代の私の父が、実家の農作業小屋の一角を借りて、機械加工の鉄工所を立ち上げました。知り合いと3人で始めたので、最初は漢字で「三栄」という社名でしたが、なかなかうまくいかなかったのでしょう。すぐにその知り合いは辞めていき、残った父が1人で会社を切り盛りしました。それから10年ほどで12、3人を雇うまで会社を大きくし、農作業小屋からいまの工業団地に移転したそうです。そのころ、私はまだ小学生ぐらいでした。
おふたりが入社した経緯を聞かせてください。
和久 私は長男なので、成長するにつれて家業を継がなければいけない暗黙の圧を感じていました。高校卒業後は機械加工の専門学校に行き、そこから勉強のために一度は別の機械加工会社に入社。ほかの会社のご飯を食べないと、社員たちの気持ちはわからないだろうという理由でした。その後、1年間、東京の専門学校で機械加工を学び直して、1987年に入社しました。
三澤優子(以下:優子) 私は主人が勉強のために入った会社で働いていました。そこで出会い、お付き合いを始めて、結婚とほぼ同時にこの会社に入社しました。
会社の強みはなんですか?
和久 父の時代は鋳物の加工工場でした。でも鋳物の仕事は粉じんなどで体が真っ黒になります。朝来たときと夜に帰るときで、顔がまったく違う(笑)。それでは将来的に若い働き手が集まってこないと考えて、私が提案して25年ほど前にステンレス加工をメインにしました。
そのステンレスの加工技術が、会社の強みです。ステンレスは材質が硬くて粘っこくて加工しにくいのですが、サンエーはそれに特化してきたことでノウハウが蓄積されています。また工場では、日勤・夜勤の両シフトで1日20時間稼働しているので、量産体制もできていると思います。
加工したステンレスは、どのような場面で使われるのでしょうか。
和久 イメージがしやすいのは水回り関係だと思いますが、半導体をつくるための半導体製造装置にも使われています。この半導体製造装置は、腐食がはやい鉄などは用いず、ステンレスとアルミの塊でできています。消耗品でもあるので、消耗するたびに私たちのステンレス製の製造部品が必要になります。
事業を運営していくなかでの「やりがい」と「苦労」を教えてください。
和久 やはり仕事のやりがいは、成果が大きく出たときです。頑張れば頑張るほど売上が上がっていき、父のときは10人ほどだった会社規模が、多いときに90人ほどにまで成長しました。そうやって事業がうまくいっているときは、すごくやりがいを感じました。
苦労はその反対で、売上が下がったときです。半導体関連の製造部品は、半導体業界の景気の影響をそのまま受けます。リーマンショックや2018年の半導体不況のときは、半端ではないくらいの打撃をうけて、つらい思いをしました。経営をしていると、そのやりがいと苦労が極端にありましたね。
会社経営で最も大切にしていたことはなんですか?
和久 やはり、社員を守るということです。私たちの会社に入ってきたからには、どんな従業員でもいいところを見つけて、一生面倒を見るつもりで接するのがポリシーでした。だからこそ、こちらから社員を解雇したことはないですし、2018年の半導体不況のときでも給与を下げるようなことは、一切しませんでした。
優子 私も同じで、従業員の努力に対して還元してあげることを大切に考えていました。従業員が結婚して子どもができ、家を建てるとなると報告に来てくれるんですね。「家を建てるので、これからも頑張りますからよろしくお願いします」なんて言われると、とても嬉しい。この会社で働き、家庭を持って家まで建てられる社員がいることは、幸せなことだと思っていました。
事業が好調で私たちも元気なうちに
株式譲渡を考えたきっかけを教えてください。
和久 後継者がいないことが理由です。息子は現在30歳ですが、食品関係の仕事につき、最近は責任ある立場のようで、いまの仕事を楽しんでいます。娘は韓国の方と結婚して、韓国で暮らしている。私自身、最初は仕方なく使命感でこの会社に入ったところがあるので、子どもには子どもの人生を歩ませたいと思いました。
もちろん、父から譲り受けた会社がほかの人に渡るのは少し迷いがありました。ただ、それよりも会社と従業員を守ってくれる会社に承継することが大切だと考えたのです。仏壇の父には、今回の決断をきちんと報告しました。
おふたりはまだ50代ですが、その年齢で譲渡を考えたのはなぜですか?
和久 やろうと思えば、あと7、8年は代表をできたと思います。ただ、その後にM&Aを考えるよりも、会社の事業が好調で私たちも元気なうちに譲渡するべきだと思いました。そのほうが社員や社員の家族を安心させられると思ったのです。
ただ、譲渡の条件としては、私たちが残ることを前提にさせてもらいました。辞めてもほかにやることもないですし、まだまだ元気なので、顧問なり取締役なりで残って仕事をさせてもらえる買い手を探しました。
2023年1月に、RCホールディングスさんへの譲渡が完了しました。譲渡の決め手は何でしたか?
和久 買い手様の人柄の部分を重視していました。その点、RCホールディングスさんは第一印象から、人柄の良さを感じることができました。初回面談で会社に来ていただいて、次の日には「是非、一緒にやっていきたい」と表明してくれたのも嬉しかったです。
優子 社長の上野さんも、取締役の牧さんも本当に温厚な方で、上からという感じがまったくありませんでした。若いのに素晴らしい方だと思います。
和久 それと、考え方にも惹かれました。近年は製造業に特化する企業グループが少ないなかで「ものづくりの注文をもらったら、1から10までグループ内で完成品をつくれるようにしたい」という目標を聞いて、すごいと思いました。本当は私も自社で1から10までやりたかったのですが、結局は加工の一部分しかできなかった。私がやりたかったことを、RCホールディングスさんと一緒になることで実現したいと強く思い、一緒にやっていきたいと決断しました。
譲渡後も引き続き働いていくうえで、期待していることはありますか?
和久 この機械加工の仕事は、設備投資に大きな金額がかかります。チャンスでも投資に踏み切れず、後になって後悔したことが何度もありました。今回、RCホールディングスさんと一緒になることで、これからは、そういう逃してきたチャンスをしっかりとつかめそうな気がします。
また、RCホールディングスさんの傘下である複数のグループ企業とのシナジーも生まれ、新しい仕事が増えていくことも期待しています。上野さん、牧さんを見ていると、本当にいろいろなところにアンテナを張っていて、絶対に会社を成長させてくださる方だという安心感があるので、これから仕事をともにすることがとても楽しみです。頑張って、グループ会社の中心にサンエーがなれたらと思います。
従業員には譲渡をどのように説明しましたか?
和久 直前までは守秘義務があるので、従業員に言えないのが少しつらかったです。譲渡が決まってからは、上の役職の人間にまず話して、その後公民館を借りて全従業員の前で報告会をしました。みんな驚いていましたが「私と女房は会社に残るから、明日から急に何かが変わることはない」と説明すると、安心してくれました。納得いかないと辞めるような人もいませんでしたし、単純に「社長のことは明日から何と呼べばいいですか?」という感じでした(笑)。
優子 RCホールディングスさんから、従業員はこのまま雇用してもらえることを約束してもらっていましたし、むしろ福利厚生を厚くするという話もいただいていたので、私たちも安心して伝えることができました。
M&Aは社員や子どもを守る仕組み
インテグループを選んだ理由について教えてください。
和久 興味を持ったのは、完全成功報酬制で着手金、中間金が一切ないということです。インテグループさん以外にも複数社お話しをしましたが、ほかの会社は着手金や中間金があったので、インテグループさんの完全成功報酬制の手数料体制はとても魅力的だと思いました。
担当してくれた森山さんも、本当に的確なアドバイスをくれるし、知識量も多くしっかりしていて好感を持てました。
譲渡が決まるまでの期間で苦労したことはなんですか?
優子 買収監査のための資料集めは苦労しましたけど、森山さんが直接山形まで来て、一緒に資料を整理してくれるなど助けてくれました。本当におんぶにだっこで、森山さんがいなかったらM&Aは成立しなかったと思います。
和久 譲渡には少し時間がかかりましたが、RCホールディングスさんと昨年12月に初回面談をしてからは、約1カ月程度で譲渡を終えることができました。インテグループさんにご依頼し、とてもいいお会社とめぐり合えたので本当によかったと思います。
――それでは最後に、会社の譲渡を検討している経営者へのメッセージをお願いします。
和久 私は当初、M&Aにはあまりいいイメージがなくて、仲介会社からご案内が来てもすべて捨てていました。しかし、本格的に検討をしていくにつれ、買い手と売り手がWin-Winになれる手法だと考えが変わりました。
いまでは、私たち家族がつくってきた会社を継続的に発展させられるRCホールディングスさんと出会い、会社と従業員を守ることができたので、本当にやってよかったと思っています。後継者不在で悩んでいる方はたくさんいらっしゃると思うので、話だけでも聞いたらいいのではないかと思います。
優子 M&Aは従業員を守ることができますし、また、子どもを守るものでもあると思います。息子だから必ず継がなくてはいけないとか、そういう時代ではありません。私たちは子どもに負い目を感じさせずにすんで、よかったと思っています。そのような意味でも、M&Aをしてとても良かったと思います。
今回、株式会社サンエーのグループ会社化を実現されたRCホールディングス株式会社 取締役の牧様に今回のM&Aについてお伺いしました。
今回、株式会社サンエーに興味を持った理由を教えてください。
弊社グループでは、長い歴史の中で受け継がれてきた高い技術力を持つ会社と手を組み、国内はもちろん、世界に向けてそれらの技術を展開していくことを目指しています。その中で、インテグループさんより高い技術力で成長し続けている株式会社サンエーのご紹介を頂き、初期的に非常に関心を持ちました。
具体的には、①ステンレスという加工難易度の高い金属の切削加工にノウハウを持っていること、②半導体製造装置メーカー向けの商流を持っていること、③約20年もの間、1日20時間の稼働体制を維持し、量産体制が構築されているというポイントに注目しました。また、その高い技術を支えている従業員の方の年齢層も比較的若く、弊社グループ全体の中でも存在感のある企業として、グループ全体の発展に貢献してもらえると感じたことも、M&Aを前に進めようと考えた大きな要因の一つとなりました。
最後に決め手となったのは、初回のご面談時において、三澤ご夫妻が引き続き株式会社サンエーに残っていただけるという意向を確認できたこと、そして弊社グループに対しても顧問としてご協力頂けるという点でした。具体的にお話が進む過程において、過去10年分以上の決算書を拝見させて頂いた際には、当初の売上高から現在に至るまで、約4倍にまで成長していることに驚きました。経営者としての三澤ご夫妻の実績にもとても感銘を受け、是非とも弊社グループで一緒に働いて頂きたいと感じました。
株式会社サンエーをグループに迎え入れ、今後グループとして目指す御社の成長ビジョンを教えてください。
弊社グループは「日本の高い技術力を集結し、製造業に新たな価値を創造する」ことをテーマに日々活動しています。この度、インテグループの森山さんの多大なるご協力もあり、株式会社サンエーが弊社グループに加わることになりました。
本件により、主に半導体製造装置メーカー、産業装置メーカーに対し、精密部品加工、表面処理、組付をグループ内で一貫して行う生産体制へ本格的に移行をして参ります。その生産体制の構築に欠かせない存在として、株式会社サンエーが活躍してくれることを期待しています。