司産業株式会社
「司が存続するなら」-思い入れのある社名を残し、従業員も応援する譲渡に
譲渡企業 | 譲受企業 |
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司産業㈱ | 日東商事㈱ |
東京都 | 大阪府 |
金属製品、樹脂形成・加工品の専門商社 | 工業製品、食品の専門商社 |
スキーム 株式譲渡 |
金属製品・樹脂加工品の専門商社、司産業(本社・東京都中央区)の金森泰弘社長(62歳)は2021年12月末、工業製品と業務用食品の専門商社、日東商事(本社・大阪市北区)に全株式を譲渡しました。後継者不在の中、コロナ禍が金森社長にM&Aを決意させるきっかけとなりました。2022年3月末で退任する金森社長に、大きな決断を下すまでの経緯をうかがいました。
後継者不在の中、売上減に重なるコロナ禍
創業の経緯と、業務の概要を教えて下さい。
創業は1955年、鋳物メーカーから独立した創業者が、金属関係の商社として発足させました。1980年代には化成品、特に樹脂成形材料の取り扱いを始め、事業は金属製品と樹脂形成品・加工品の2本柱になりました。現在では船舶の船体や内・外装設備にも使われる軽量かつ強度の高いFRP(不飽和ポリエステル)製品や鋳物の取り扱いが中心です。
同業他社の多くが特定の製品に特化しているのとは違って、この2分野の商材を多岐にわたって取り扱っています。「お声がけいただければ、何かしら探して参ります」という、いわば「何でも屋」的なところが弊社の特徴ですね。それに加えて、原材料の調達のみならず、組み立て終わった完成品の納品まで手掛けているメーカー的な付加価値も強みだと考えています。
1990年代終盤に、国内でまだ知名度の低かったマグネシウム合金の鋳造品を受注できたことで、防衛産業との関わりが始まりました。自衛隊員が背負って歩く衛星通信機器の筐体や、パトリオットミサイルの遠隔操縦機の筐体、国産哨戒機P-1が潜水艦をソナーで探知するために搭載するアンテナなどを供給しています。
今回、会社の譲渡を考えたきっかけは何だったのでしょうか?
直接のきっかけとして非常に大きかったのが、いまお話したP-1への搭載設備品の売上がなくなったことです。取引継続中のアンテナとは別の機内部品なのですが、軽量化を図ったマグネシウム合金製加工品が2020年をもって生産終了となり、そのバージョンアップ版を受注できなかったのです。大きな売上を計上していたので痛手ではありますが、こうした量産機器の生産終了は我々のような商社にとっては宿命であり、仕方のないことでもあります。
ただ、これまではそうした大きな取引が終了しても、また別の大手のお客さまの新たな需要が立ち上がるなどして、プラスとマイナスのバランスがうまく取れていました。しかし、ここ10年ほどは、新規のお客さまがなかなか見つからない一方、なじみのお客さまとの取引もどんどん先細ってきていて…。それに加えて、大口のお得意先が、さまざまな部品を中国から調達するようになって、価格で折り合いがつかなくなっていました。
売上が減少するなかで、社長として1人でいろいろと悩む時間が増えました。本来なら、こういうときこそ外に出て新しいビジネスに向けて情報収集すべきなのですが、コロナ禍でどこにも行けずに悶々とする日々が続きました。そうした中で、社内に後継者もいないので、ならば私の代で…という考えに傾いていったのです。
M&Aなんて自分には関係ないと思っていた
M&Aを意識するきっかけは何だったのですか?
実際のところ、M&Aという言葉にはずっと拒絶感を感じていました。自分には関係ない、絶対にやりたくない、という考えがずっと念頭にありました。しかし、次第に取引先からもM&Aの事例がいくつも聞こえてきまして、コロナ禍という不慮の状況下でこれも時代の趨勢なのかとも考えるようになっていました。
最初にインテグループさんの名を知ったのは、確かインターネット上だったと記憶しています。日ごろからM&A仲介会社5社程度からダイレクトメールが頻繁に届いていて、インテグループさんからも書類をいただいていました。そして、堤さん(コンサルティング部マネージャー)と最初のコンタクトを取ったのが2021年3月。ダイレクトメールに背中を押してもらった、ということかもしれません。
なぜインテグループを選んだのですか?
完全成功報酬制というのも1つありましたが、やはり堤さんの人柄に惚れたのがいちばんの理由です。同じ時期に他社からも「面談させてくれ」というリクエストが何度もあったのですが、まずコンタクトを取った際の堤さんの丁寧な物腰と他社の方のビジネスライクな態度とで、私の中で印象がかなり違ったので、ここは堤さんにお願いしてみようと考えました。
2021年4月から5月にかけて株式譲渡について役員同士で検討した後、6月にインテグループさんと仲介契約を締結しました。業績的に非常に落ち込みの激しい現状と、現在の純資産をお伝えして、「どなたか手を上げてくださる方がいらっしゃれば」という旨を堤さんにお願いしました。すると、すぐに100社以上の会社をリストアップしてくださったんです。その中で、弊社に興味を持ってくださったところが6~7社、さらにその中で、ある程度の金額感まで出していただいたのが3社でした。
その3社の中で、日東商事さんに絞ったのはなぜでしょうか?
もともと、まったく畑違いのお相手はあまり考えていなくて、商社という同じ業態で、弊社の業務は残しつつお相手の業務を補完していくことができればいいなと漠然と考えていました。
3社の中で商社機能を持っているのは日東商事さんだけ、しかも工業製品から食品まで手広く手掛けておられます。扱っている商材が近い部分もありますし、むしろ傘下になることで弊社の仕入れ・販売を拡大し、即戦力としてやっていけるのでは、との思いもありました。
何よりもうれしかったのは、まず手を上げてくださったことです。そこで、ぜひということで、お話を進めさせていただきました。
その後、2021年7月に日東商事さんから面談の依頼があり、8月に玉手宏明社長と初めてお話ししました。玉手さんは創業75年目という弊社と同じくらい長い歴史を持つ老舗商社の4代目で、お若いうえにお人柄にも非常に良い印象を受けまして、この方にだったら司産業を託せるかなと感じました。
「会社はそのまま継続して」という言葉が嬉しかった
交渉する中で、うまく折り合えない点などはありましたか?
いえ、それはもう最初からなかったですね。最初に面談したときの、玉手社長の「司産業さんとして、そのまま継続していいですよ」という言葉が胸に響きました。やはり「司」のブランドに愛着がありますので、そう言ってくださった時点で言うことはありませんでした。2021年9月に日東商事さんから条件をご提示いただきまして、10月に基本合意契約の締結に至りました。
この期間も、インテグループさんはやはり非常に温かく見守ってくださいました。「大丈夫ですよ」と安心感を持たせてくださることが多かったので、堤さんには感謝しています。もちろん会社の譲渡は初めての経験なので、不安やいろいろなこともありましたが、堤さんの存在は非常に心強かったですね。
何十年もお付き合いいただいてきた取引先の方々からは、口幅ったい言い方ですが「司産業の名前がなくなったら、もうお宅とは付き合わないかもよ」とも言われていましたので、そのまま社名を残してやらせていただけるのは非常にありがたいです。2022年3月末で私は代表取締役を退きますが、営業担当としてしばらく残ることになりました。現時点では日東商事さんから取締役を派遣して常駐させるといった形ではなく、玉手さんが弊社の代表取締役となります。
これから、M&Aによってどんなシナジー効果を期待していますか?
これまで弊社はどちらかというと、受け手のニーズに寄り添った営業で、「こういうのをつくりたいんだけど、どんな方法だったらうまいこと作れるの?」といった取引先のニーズに、「じゃあ、こういう材質でこういうものではどうですか?」と提案するのが“型”で、こちらから提案を持ちかける積極営業ではないところがある意味、弱点とも言えました。
その点、日東商事さんの営業は、弊社とは逆に積極的な「開発型」です。今後は日東商事さんからいろいろと学びながら、これまでの取引先にこちらから提案するという働きかけをすれば、勝機が少し見えてくることもあるのではと思っています。一方で玉手さんには「日東商事にはない商材について、ぜひ教えてほしい」とも言われましたので、たとえば、こちらから「こういう取引先でこういうものを作っていますよ」といったご提案ができるのではと考えています。
100点満点でいえば98点
社員や取引先の反応はどうでしたか?
会社の譲渡について従業員に明かしたのは、2021年10月に契約書を取り交わす直前のタイミングでした。みんな、「司の存続が最優先であればいいんじゃないか」と快く応援してくれまして、特に長く在籍している女性社員は「会社が存続する」と聞いて安堵していました。これからの社会人としての人生を、みんなぜひ、引き続き「司」でまっとうして欲しいなと思っています。
取引先については、今回のM&Aに関するご案内の葉書を送ったところ、ある社長さんから電話がかかってきて、「何で言ってくれなかったんだよ」と言われたこともありました。コロナ禍でなかなか会いに行くこともできず、不義理をしてしまったところもありますので、コロナがひと段落して温かくなったら、ご説明のために行脚しなければと考えています。
最後に、これからM&Aを検討している経営者の方々に一言お願いします。
インテグループさんの対応は、100点満点でいえば98点。まあ、100点と言うと語弊があるかもしれないので(笑)。ただ、非常に満足しています。M&Aを検討している経営者の方々がいらっしゃれば、インテグループさんに一度、ご相談してみてはいかがでしょうか?