かんぽの宿
「売却価格が低すぎる」として鳩山総務相が強く反対している。
「売却価格が高すぎる」と私は思う。
毎年40-50億円の赤字が出ている事業を、純資産(93億円)を上回る109億円で売却できれば御の字である。
通常M&Aの世界では、大きな赤字が出ている事業が、純資産以上で売れるということはまずない。
派遣切り等で失業が現在大きな社会問題になっており、また事業が赤字を垂れ流している現状において、全従業員の雇用の継続や一括売却が条件(少なくとも希望条件)となったのは妥当であろう。
宿泊・保養施設である「かんぽの宿」は一種の不動産ビジネスと言えるが、昨今これほど多くの不動産会社が倒産している中、不動産事業の買収資金を金融機関から調達するのは極めて困難であるし、買い手自体が相当な信用力がないといけない。
従い、入札前に一部の小規模で信用力・体力がないと思われる買い手企業がはじかれたのは不自然ではない。
もちろんプロセスに出来レース的な要素があったのであれば厳しく追求されるべきだが、今から一から再度売却活動をはじめるとなると、売却するのに半年から1年はかかるだろう。
例えば、半年売却が遅れれば、20-25億円の赤字が追加で発生するので、その分売却価格が上乗せされないと経済的に正当化されない。仕切りなおしで売却活動をしても、より高値で買収するまともな買い手を見つけられるかは極めて疑問である。
経済界は概ね日本郵政・オリックスに同情的と思われるが(或いは触らぬ神に祟り無しということで静観)、政治家が与野党共に鳩山総務相に同調的なのは残念だ。
(弊社は「かんぽの宿」の譲渡に関し一切利害関係はありません。また、新聞報道以上の情報は持っておりません。)
藤井一郎
07/Feb.2009 [Sat] 19:56
M&Aにおける誠実さの重要性
東証マザーズ上場のLTTバイオファーマの子会社である医療コンサルティング会社のアスクレピオスが、虚偽投資で200億円あまりを集め破綻したことがニュースとなっている。
少し調べてみると、LTTバイオファーマは、2007年9月にアスクレピオスを買収したばかりのようだ。
買収の際には、当然デューデリジェンスを実施したであろうが、このような問題は事前に確認できなかったのだろうか?
買収契約書には、このような事態が発生すれば売主に損害賠償請求できるような条項が付いているはずである。しかし、そもそも売り手に損害賠償資力があるのかが疑問であるし、少なくとも上場企業である親会社はレピュテーションの低下という回復困難な損害を受けることになるだろう。
どのような経緯・目的で、買収に至ったかは不明であるが、買主としては、売り手の誠実性を見誤ったということだろうか。
M&Aでは、売り手・買い手の誠実性がそもそものベースにあると思っている。
売り手様からご依頼を弊社として受けるかどうかを判断する場合に、会社の財務状況以上に重視するのが、経営者の誠実性である。
数回お会いするだけでは、本当にその方が誠実かどうかは、判断できない部分もあるだろう。
ただ、一度会っただけでも、“誠実ではない”という印象を持たざるを得ないような方も存在することは事実であり、そのような方からのご依頼は全てお断りすることになる。
弊社の社名の由来でもあるこの誠実性という問題を、再度考え直したいと思う。
籠谷智輝
29/Mar.2008 [Sat] 18:20
株主価値
スティールパートナーズの判決や村上氏の実刑判決に関連し、紙面やインターネット上で、その判決の是非が議論されている。
議論を大まかに2つのサイドに分けるとすると、“会社は株主のものであり、株主は自己の経済的利益の最大化を志向して当然”というものと、“過度の利益至上主義は、容認しがたい”というものだ。
ここで、双方の立場について、私見を述べるつもりはない
ただ、議論の背後に、株主価値=経済的リターンという基本的認識があることには、若干違和感を覚える。
私は、会社は株主のものであり、経営者は長期的には株主価値の最大化を志向するべきだと思っている。
ただ、同時に、株主価値とは、単なる経済的リターンではないと考えている。
不特定多数の株主が存在する上場企業では、株主価値≒株主の経済的リターンとならざるを得ないのは致し方ない面もあるだろう。
一方で、中小企業のように、株主が一定数しかおらず、特に経営者=株主の会社はどうか。
私は、家業で中小企業の経営を経験したが、家業の経営陣を含め、私が出会った中小企業経営者は、必ずしも経済的リターンのみを求めていなかった。
家族同然の従業員の雇用を維持すること、自ら創業した事業を拡大発展させること
自分のアイデアを形にしていくこと、そういうことに重きを置いている経営者が多かった。
株主価値とは、読んで字のごとく株主が求める価値である。
それは、単なる経済的リターンに限定されず、より多様なものであるはずだ。
我々は、M&Aアドバイザ-として、顧客である売り手株主のために、株主価値の最大化を目指す。
しかし、それは単なる譲渡価格の最大化ではなく、雇用維持や事業の継続・成長といった、経営者/株主の皆さんが本当に求める価値を、M&Aのストラクチャー・契約条項に落とし込み実現させることである。
籠谷
24/Jul.2007 [Tue] 14:01
村上事件で思うこと
村上ファンドの前代表の村上世彰氏が7月19日東京地裁で懲役二年、追徴金11億円の実刑判決を言い渡された。
以前村上氏は「聞いちゃった」と容疑を認める記者会見していたが、その後公判ではライブドアの株式取得は現実性がなかったとして容疑を否認。しかしながら、今回判決では「村上氏ができる限りファンドの利益を上げるために、ライブドアを勧誘した」と指摘されている。
真実はどこにあるかはっきりしたことは当事者でない我々には分からないし、村上氏も控訴するとしているので、最終的な決着はどうなるか分からない。
しかし、いずれにしても今回の事件で、全ての企業人は改めて襟を正さなければならないと思う。
特に、金融の世界、我々のM&Aの世界でも、インサイダー情報を耳にする機会は非常に多い。実際、上場企業同士の大型のM&Aが大筋で合意にいたると、公表されていない情報にも関わらず、株の売買高が増えるという現象が起こるようだ。(いったい誰が情報を利用しているか?)
また、相手をもし唆せば自分の(金銭的な)利益に繋がるという場面もある。
技術的に情報の管理を徹底することはもちろん大事だと思うが、何よりも一番大事なのか、自分で自分自身を律することだと思う。
弊社の社名はIntegrityとGroupを併せてIntegroupとしている。
Integrityとは「思考、言葉、行動が一致していること」「裏表がないこと」「誠実さ」を意味する。
常にIntegrityを心がけておかないと、人間は弱いものなので、様々な悪の誘惑に負けてしまうかもしれない。
Integrityを持った人材が集まる会社にしたいという思いで、このような社名にした。
藤井
20/Jul.2007 [Fri] 13:56